呪術意識と現代社会―東京都二十三区民調査の社会学的分析

呪術意識と現代社会―東京都二十三区民調査の社会学的分析

呪術意識と現代社会 竹宮郁郎/宇都宮京子

P20:E・E・エヴァンズ=プリチャードの生得的な妖術(witchcraft)と獲得的な邪術(sorcery)
第三章 東京都二十三区の呪術的傾向 新津尚子
P64:(表3-1)・・・興味深いのは、どの市町村類型でも、「信仰がある」と答える者よりも、「家の宗教はある」と答える者が多いことである。
P65:若い母親が育児書の影響で、親世代よりも「宮参り」などの「伝統的」な行事を行なう傾向がある。・・・個人化・核家族化が進んでいる東京都二十三区においては、マスメディアの影響によって、伝統的な慣行を行なう人々が増加している可能性も考えることができる。以前は親から子へ、あるいは地域の中で伝わっていたものが、現在ではマスメディアによって伝えられている可能性もある。
P66:・・・若い年齢層では自分自身は信じている訳ではないが、忌み日を嫌う人がいるという知識があるために拒否する人の割合が相対的に高い。
第四章 行事・慣行の現代的意味 北條英勝
P84:豆撒きの実行頻度が高い人ほど節分に呪術的な意味合いを認める人が多く、・・・実行頻度の低い人々は、節分を伝統や慣習と捉えたり、単に意味の無いものと看做している。・・・習慣的・年中行事的な行為と考えられる節分は、・・・現在でも呪術的意味付けをすることにより、毎年欠かさず行なっている人々によって担われてもいるのである。
P85:仏壇を保有する人のうち「毎日」お供えをする人は、実に49.2%で、「時々」31.6%と合わせると、8割を超える。神棚では「毎日」30.8%、「時々」21.6%。・・・「大切な人との死別」経験者はお供えの実行頻度が高い。
第五章 墓参りと現世利益 荒川敏彦
P98:墓参りでのお願い経験:「ある」67.3%
P102:図5-6・墓参りでのお願い経験−男性の経験者は30代を別としてほぼ6割台で一定しているのに対し、女性の場合は世代が上がるに連れて徐々にお願いする比率が減少する。
P104:・・・むしろ人生を幸福と感じている人ほど墓参りで「お願い」をしている。
P106:人生の幸福感が明確である人の方が、墓参りでの「お願い」を経験している。・・・「幸福感」が大きい方が親呪術的傾向を示すことは、他の呪術的行為についても見られることである。
P107:図5-10・墓参りでのお願い(祈願の効果)−「祈ればかなう」81.4%、「心が安らぐ」63.7%
第六章 お守りを捨てられますか 横山寿世理
P116:・・・さらに、その呪術は「捨てるときにしか顕在化しない」ということを明示したい。
P118:荒川歩と村上幸史「お守り保持と宗教的信仰の有無とは必ずしも関係していない」
図6-1・信仰別お守り入手過程と自然の霊信頼によるお守りの入手過程−信仰のある人は、信仰が無い人よりも、お守りを持ったことが無い割合が大きい。お守りを持ったことが無い→「信仰あり」26.6%、「信仰なし」14.2%)、つまり、信仰の無い人の方が積極的にお守りを所持する傾向ある。
図6-2・お守り贈与−お守りを人にあげたことが無い→「信仰あり」59.1%、「信仰無し」48.3%
図6-3・お守り廃棄−廃棄に抵抗を感じる→「信仰あり」69.2%、「信仰なし」63.3%
P120:自然の霊はありうると回答した人の方が、お守りに肯定的な意識を示す傾向にある。これは信仰のある人とは対照的である。
P124:お守りに親和的(肯定的)な人々の属性は次の2点、お守りに積極的に関与する(所持・贈与)のは、女性・結婚経験者。捨てることに抵抗感を示すのは、未婚・高学歴者。
P126:お守りを捨てることに抵抗を感じるかどうかは、清め塩をするかどうかに強く関連しているといえる。
P127:お守りを捨てることへの抵抗感の<ある/なし>の方が、お守りの贈与<経験/未経験>よりも、強く、お祓いの効果を信じるかどうかに関連している。お祓いの効果についても、清め塩と同じ傾向を示している。
第七章 「占いブーム」の現在−その受け手は誰か 下村育世
P146:「宗教への信仰」している者は占いを信じる比率が高い。−占いを信頼している「信仰ある」43.5%、「信仰無い」15.3%
P148:戦前までの占い師はほぼ男性。
第八章 若年層の「呪術」とその特徴−高齢層との比較のなかで 下村育世
P172:「宗教」のなかの思想・知が、宗教思想の基盤を持たず流出し、・・・信仰という基盤から遊離し断片化した知・思想によって、「呪術」領域は肥大化し、「宗教」の領域確定が難しい状況になってゆくことが予想されてくる。
第九章 神棚的秩序と仏壇的秩序 北條英勝
P179:仏壇と神棚が「両方ある」人は、長期に渡って同じ地域に居住し続けている場合が多い。
P181:個々人の自覚的な信仰認識とは殆ど関係なく、仏教や神道の祭具を家に設置している。・・・「神棚のみ」保有する人の「信仰がある=5.4%」比率が仏壇と神棚が「両方無い=7.6%」人よりも低い。
P185:神棚を保有している方が仏壇を保有している場合よりも呪術的要素に親和的だと考えられる。
P195:神棚がある人は無い人よりも、念仏やお経に「効果がある」と答えた比率が高い。
P198:(神棚だけの保有者)は、神仏習合的な秩序と言うよりは、いわば、「神棚的な」秩序を生きている。・・・今後、年齢が高くなるに従って仏壇を保有する傾向が高まる可能性がある。その意味で彼らは、最も伝統的な人々同様に、伝統的な秩序を生きているといっても過言では無いだろう。これとは対照的に、仏壇だけを保有する人々は、脱呪術的特徴という点で、仏壇も神棚も保有していない人々と多くの点で共通している。
第十章 運命と呪術 宇都宮京子
P222:忌み日には何らかの根拠があると考えている人々の方に運命決定性を信じる傾向が見られる。・・・根拠は解らなくても、人知を超えたルールだとして従おうとする傾向があるかどうかが、運命決定性についての意見にも反映しているのではないだろうか。
第十一章 祈願に対する効果意識−呪術効果と心理効果 荒川敏彦
第十二章 呪術的諸要素の特性空間 北條英勝
終章 生活意識と呪術的なるもの−近代化概念の再検討を目指して 宇都宮京子
あとがき 宇都宮京子
P285:MGC・I(山手の杉並区と下町の荒川区とに地域を限定した)の調査の際・・・脱呪術化との関係で最も顕著な特徴を示したのは、「地域性」だった。学歴や職種は、「脱呪術性」と大きな関連を示さなかったのである。「より高い教育を受け、合理化された人々は、より脱呪術的である」という素朴な通念はそこで打ち砕かれた。