まっとうな経済学

まっとうな経済学

まっとうな経済学 ティム・ハーフォード
P20:コーヒーバーがカプチーノで高い利益率を享受できるのは、品質や従業員でもなく、立地のよさにつきる。
P38:避妊具や生理用品などの「厄介な」商品は、新規参入企業とって大々的に宣伝するのが難しいため、収益性が高い。
「独占レント」
P43:ストリートギャングの預金口座の明細ー「歩兵」の時給1.7ドルから10ドル未満、平均的な構成員は4年に2度撃たれ、6回逮捕、4人に1人が死ぬ。成功しているマフィアの事業には「レストラン」を顧客とした(法外な高値ではあるが)クリーニング業がある。
P45:ウォルマート労働組合に対して圧倒的な交渉力を持っている。
P46:典型的な「グリーンベルト」として、免許の有効期限が非常に長い、専門職団体による年間の新規認定者数が少ない。・・・法律家や医師は、充分な能力のある専門職の供給を制限し、低コストの代替手段を非合法化することに最善を尽くす。・・・牧草地の地代を払えなければ、低木地も草地も使えなくなる。
P48:新しい移民の流入によって最も影響をうけているのは先住の移民。・・・大量の熟練移民を受け入れれば、熟練労働者と非熟練労働者の賃金格差をコントロールできる。
P50:リカード穀物法の影響を考察するだけでは満足せず、(下院議員になり)穀物法を廃止しようとした。
P54:コスタが差額10ペンスで「フェアトレード・コーヒー」を販売:・・・(フェアトレード最大手の)カフェダイレクトはコーヒー農家に1ポンド当たり40から55ペンスのプレミアムを支払っていた。このプレミアムの上乗せで、グアテマラの農家所得(年間平均所得は2000ドル)は倍に増える。カプチーノ1杯に使われるコーヒー豆は「1/4」オンス(=1/64ポンド)だから、値上げ幅1杯当り「1ペンス」にも満たない。・・・フェアトレードコーヒーの価格を10ペンス高くしたため、それが、コーヒー豆の入手に実際に掛かったコストだという間違った印象を与えてしまう。・・・覆面経済学者がこの点をコスタに問い合わせると、この事業そのものが誤解を招くとして、2004年末から、普通のコーヒーと「同じ値段」になった。・・・社会意識の高い市民は価格意識が低く、社会意識が低い市民は価格意識が高いことをコスタは知った。
P59:アマゾンは「値上げ」クーポンを発行している。・・・クッキー(購入履歴)を消去すると、多くの場合価格が安くなる事実が明らかになると、コスタと同様、アマゾンもこの方法を今後とらないと公約している。
P60:利益を拡大し、希少性の力がもたらす価値を最大限に高めようと企業が興味をもっているのは、高い金額を「支払える」人たちではなく、高い金額を「支払ってもよいと思っている」人たち。
P62:「自己有罪」戦略、「自己ターゲティング」戦略
P66:スーパーマーケットに入ったときに目を引く商品は、偶然に目を引いたわけでは無い。
P68:有機食品はたいてい一箇所に集められる。有機食品の購入者が非有機食品の価格に気づかないように。
P72:よい買い物をしたいなら、安い店を探そうとしないことだ。安く「買う」ことを目指すべきである。・・・一回の買い物で購入代金が高くなるのは、”価値の低い”店にはいったからではない。高い商品を無造作に選んでいるからである。
P77:レストランの店主は客がいすわることに対して料金を請求したい。そこで、時間をかけて食事をするときに注文される傾向がある商品(ワイン、前菜、デザート)の値段を高くする。
P79:・・・ある鉄道の三等車両に屋根が無く、座席が板張りなのは、費用を惜しんでいるからではない。二等車の料金を払える乗客が三等車に乗らないようにしているのだ。困るのは貧乏人だが、貧乏人を困らせたい訳ではない。金持ちを怖がらせたいのである。・・・貧乏人には必要なものを与えずに、金持ちには不要なものを与えているのだ。・・・(フランス鉄道業界草創期に流布した有名な話)
P0:「単一設計で量産し、2種類の価格で販売する」:IBMの低価格プリンタ「レーザーライタE」は「レーザーライタ」と全く同じ部品で作られていたが、廉価版「E」には印刷速度を遅くするチップがわざわざ組み込まれている。・・・客に高級モデルを買わせるため、印刷スピードを遅くした。・・・インテルも2種類の非常によく似たプロセッサーチップを異なる価格で販売していた。じつは、生産コストは性能の低い「廉価版チップの方が高い」。高性能チップをベースに、そこから機能を一つ取り除く工程を追加していた。・・・同じく、パッケージソフトの高機能「プロフェッショナル版」よりも価格の安い「スタンダード版」の方が「機能を絞る」余計なコストがかかっている。
P83:DVD業界はリージョンコードで「グループターゲット戦略」を行使したが、ユーザーとDVDメーカーにリージョンフリーで対抗された。
P86:少なくとも一人の効用が高まり、誰の効用も悪化させない変化を指摘できる状態を、経済学では「現在の状態は非効率である」という。効用の変化を指摘できるが、それによって誰かの効用が悪化するならその状態は「効率的」という。これは犠牲を払わずに状態を改善する方法が無いと言っているだけである。
P100:(タンザニアでは)コーヒーは自由市場では生産されておらず、コーヒー価格の高騰がもたらす予想外の恩恵は全て、農かではなく、政府の手に入る。
P103:適正な商品が適正な方法で適正量生産され、その価値を最も高く評価している人物の手に渡るなら、効率性が改善する余地は無い。言い換えると、完全競争市場よりも効率的な市場は存在し得ない・・・「価格とは、企業にとっての費用を真に表象するものであり、顧客にとっての価値を真に表象するものでもある」
P107:税金には利点があるが、税金は真実を語らない。
P111:ケネス・アローは全ての完全市場は効率的であるだけでなく、<スタートする位置を調節すれば、あらゆる効率的な結果を競争市場を用いて達成できる>ことを証明した。
P116:イギリスでは例年、暖房が不十分なために25000人の高齢者が亡くなっている。
P128:車そのものが深刻な大気汚染や渋滞を引き起こすわけではない。車の”運転量”が問題なのである。
P131:当事者には小さな利益しか得ないが、他の人には大きな費用を生じさせるケースを重視すべきである。
P133:(外部性課金)渋滞課金は効率性を向上させると同時に、富裕層からより多くの税金を徴収することによって、所得を再配分する機能も併せ持っている。
P137:SUVが他の車よりも重く課税される可能性があるのは、燃費効率が悪い上、車体が重く車体の前部が高いために衝突時の相手車両への攻撃性が高いからであって、高価だからではない。SUVに重く課税する目的は、小さく、軽く、燃費効率の高い車への切り替えを促すことであり、安い車に乗ることを奨励することではない。
P147:・・・EPAが1993年に二酸化硫黄排出枠の入札を実施したとき、(1トン削減する見積り額は250ドルから700ドル)高値で入札した汚染者はごく僅かしかいなかった。企業側は費用を誇張して見せていた。・・・このEPA方式は世界の先例になり、中国北東部の太原が同制度を導入した。
P148:(二酸化炭素の排出削減費用も排出枠入札で答えが出る)・・・環境保護主義者の言葉を信じるなら、基本的にエネルギー効率対策からは費用が発生しないため、排出権が全て入札にかけられることはない。この言葉が正しいかどうかはまもなく明らかになる。その後の数年間で、入札にかけられる排出枠は減っていく。・・・投機目的で炭素の排出枠を購入・保有する投資家がいるため、炭素の排出量は排出枠数の減少を上回るペースで減っていく。この点は問題にはならない。その分の排出枠の行使が先送りされるだけのことだ。排出枠の価格が高くなられば、そうした情報にもとづいて議論が深まり、気候変動費用が排出削減費用を上回っているかどうかを問えるようになる。しかし、経済学者の間では、カルフォルニアの硫黄排出枠取引と同じように、炭素除去費用は予想よりも低いことがすぐに明らかになり、どうしていままでこうした対策をとらなかったのか不思議に思うだろうとする見方が一般的である。
P152:環境問題を解決するには、情報と誘因の両方が必要であり、市場はその両方を提供できる。
P161:GDPには、武器販売、後に高額な修繕工事が必要になる劣悪な建築物、通勤の経費など、有害なものが数多く含まれているが、子育てや山歩きといった重要なものがスッポリと抜け落ちている。大部分の経済学にはGDPはほとんど関係しない。経済学とは、誰が、何を、どのような理由で手に入れるのかを知るための学問だ。この意味では、きれいな空気や円滑な交通は「経済」の一部である。
P166:ジョージ・アカロフの「ピーチとレモン」−商品の品質に関して一方の主体が他方の主体よりも詳しく知っているなら、優良な商品は全く取引されなくなるか、大量に出回らなくなる可能性がある。・・・アカロフの示した市場とは、存在するべきであるのに、内部情報の浸食作用によって消滅してしまった市場である。
P168:(市場が切断されている)観光地には、質の高い料理店は一軒もない。
P170:(内部情報と医療保険)−アカロフのおかげ優良中古市場と全く同じように、保険市場にも消える可能性がある。
P172:保険契約は「互いの無知」の上に成立している。
P183:車に盗難保険がかかっていると、空いているところがあれば何所にでも駐車する。
P190:QUALY(質調整生存率)のもとでは、目が見えない患者よりも目が見える患者を助けることの方が価値が高いと評価されるのだ。・・・治療によって人生の価値が高まらないのであれば、その医療費を支払う価値はない。
P194:政府が管掌する公的医療は非効率である。意思決定が患者の手から離れ、資源は政治プロセスによって配分されるからだ。一方、市場原理を導入した民間医療にとっては、内部情報による保険市場の破壊がとてつもなく大きな問題となっている。
P196:(患者に最大限の責任と選択権を与える)医療費は患者が全額負担するが、高額医療費は保険がカバーする。国民全員が医療費専用の預金口座をもち、貧困層の患者や慢性疾患の患者には政府がその口座に補助金を支給する。
P198:(キーホール経済学は機能する)アメリカ国民は医療の大部分を、著しい機能不全に陥っているこの市場を介して受けている。・・・医療システムが機能しているシンガポールが稀な例であるのは、政策議論が「市場に任せるべきだ」という主張と「政府ん方が巧くやれる」という主張に二分されているから(だろう)。政府型と市場型は二者択一の関係ではない。この二つを切り離して考えることは無意味である。・・・シンガポール政府は、医療費用預金口座の開設と高額医療保険への加入を義務付けて、医療費を確実に抑制しながら、患者の選択権をシステムの中心にすえることによって、この問題に真正面から取り組んだ。
P205:どのレジに並んでも結果は同じであり、あれこれ考える必要はない。
P213:「1996年にFTSEを売ったトニー・ダイ」が他のファンドマネージャーに与えた教訓−(正しい判断をして)群れから離れると、成功しても何人かの顧客を獲得するのが精々で、失敗すれば職を失う。群れと一緒に走る方がはるかに安全だ。−
P217:歴史的に見ると、長期PERは常に「16倍」前後で推移している。
P220:利益は希少性から生まれる。
P222:経済の革新と株式市場は連動しない。−競争が激しい限り、鉄道が稀少性の力をもつことはまずない。・・・恩恵を享受するのは、平均賃金が上昇する労働者と、物価が下がるか、質のよい新しい財やサービスを得られる顧客である。アマゾンは2003年に3千万ドルの利益を計上したが、これは同年の音楽業界の世界利益が25億ドル減少したことと対比させて考えるべきである。
P223:自称「ドットコム企業」の大部分は最低限の費用で模倣できる事業を展開しており、その事実だけでも株式の価値が無かったことは明らかでる。経済の変化は重要ではなく。希少性の力を持たない企業の収益性が高くなるほど経済が変貌することなど、絶対にない。
P233:チップがポーカープレイヤーの強気か弱きかを伝える「コミュニケーション」の手段である。・・・本物の金が掛かっているからこそ、ハッタリが意味を持つのである。
P234:米国政府は1990年後半に電波免許を入札方式で売却、このとき企業側は入札価格の下三桁に地域コードを組み込み、コード入札を巧みに利用した。
P237:フォン・ノイマンは、手札が考えられるかぎり「最悪」のものであるときはにはハッタリをかけるのが正しいプレイであることを示した。弟子のクリス・ファーガソンは2000年のポーカー世界大会で優勝し、その仮説を証明した。
P240:ヴィクレイ型入札−封印入札による「第二位高値方式」、落札者は「2番目の者の入札価格を支払う。 ← 「入札者には利益を増やすために入札価格を引き下げる動機が全く無い」
P246:「入札を成功させるには、真剣な入札者が数多く参加する必要がある」
P254:企業は、価格設定を上限まで高める。また、その能力は希少性の力によって制限されることも分かっている。・・・最終顧客の価格を決めるのは、免許料ではなく、希少性の力である。
P255:3G免許の入札が通信会社を窮地に追いやったと非難されたが、深刻な経営難に陥っていた通信会社は3G免許を取得していない。
P258:カメルーン観光省の仕事は、観光客がカメルーンに来ないようにする。
P273:カメルーンでは手続きの一つ一つが賄賂を引き出す機会になる。
P278:カメルーンの悲劇は、利己主義の暴走を抑えるすべが無い。
P282:「どのプロジェクトも、プロジェクトの成功から利益を得る人とプロジェクトを成功させられる人が同じである場合に、成功する可能性が最も高くなる」
P284:・・・コンクリート製のダムは維持管理が作業が”少なく”なるため、灌漑システム全体を維持管理する協同関係が機能不全に陥る。・・・灌漑システムの人間的な特性には全く注意が払われなかった。これがネパールの近代的な灌漑システムの多くが失敗に終わった原因である。
P286:カメルーンの貧困度はアメリカの4倍になると予想されるのに、実際には55倍に達している。
P293:「豊かになりたいのなら、世界と密接な関係を築くとよい。何も変えたくないのであれば、港を土砂で埋めるのがいちばんである。豊かになり、かつ、何も変えたくないというのであれば、その期待は裏切られる」
P296:比較優位から、ウィルソン教授は経済学の本を書かない。
P300:貿易の影響で国内の雇用が全て奪われることは絶対にありえない。また、あらゆるものを海外から輸入して何も輸出しないというのは、はっきり言って不可能である。・・・輸入品の対価となる輸出品を生産しない限り、輸入品を買うことは出来ない。
P301:外国通貨を使った輸入が禁じられれば、財を輸入して外国通貨を獲得することに時間と金をかけようとは誰も思わない。国内経済の一部の産業は振興されるが、別の産業はすたれていく。「輸入禁止」政策は「輸出禁止」政策でもある。実際、「輸入税が輸出税と全く同じ効果をもたらす(ラーナーの定理)」ことが1936年に証明された。
P302:ラーナーの定理に基づくなら、アメリカのテレビ製造業の雇用を守るために中国製テレビの輸入を制限するのは、アメリカのテレビ製造業の雇用を守るためにアメリカの電動ドリルの輸出を制限するのと同じ結果になる。事実、アメリカのテレビ製造業界は実際には中国のテレビ製造業界と競争しているわけではない。本当の競争相手はアメリカの電動ドリル業界である。電動ドリル業界の方が生産性が高ければ、テレビ製造業界は生き残れない。
P303:自由貿易と貿易制限を比べたら、自由貿易の下では、中国の労働者もアメリカの労働者も、これまでと同じ量の仕事をこなしたら、貿易制限の下の場合よりも”早く仕事”を切り上げられる。
P305:貿易は技術が形を変えたものである。・・・アイオワで自動車を育てるには、小麦をトヨタ車に変える特殊な技術を活用する。小麦を船に載せ、太平洋に送り出す。しばらくすると船はトヨタ車を載せて戻ってくる。小麦を太平洋沖でトヨタ車に変えるこの技術は「日本」と呼ばれているが、・・・どちらにしても、デトロイトの自動車労働者はアイオワの農民と直接競合している。日本車に対する輸出制限は自動車労働者に利益を与え、農民に打撃を与える。現代版「ラッダイト運動」である。・・・自分たちの利権を守るために自由貿易に反対している利権集団は、貿易の影響をあまりのも誇張している。・・・健全な経済では、絶え間なく失業が発生し、それと同時に雇用も創出される。
P308:貿易も、外国投資も、豊かな国と貧しい国との間ではなく、”豊かな国同士の間”で起こる場合が圧倒的に多い(インドネシアで製造されるナイキのシューズは例外)・・・残念ながら、豊かな国は最貧国とはほとんど貿易を行っていない。
P310:貿易と環境破壊の間には何の関係も無い。「底辺に向かう競争」・・・貿易の圧倒的多数が同水準の環境基準を持つ富裕国間で行われていることを思い出せば、心配は納まる筈だ。・・・アメリカ企業で最も汚染集約的な企業でさえも収益の2%しか汚染対策費用に当てていない。企業が海外に移転するのは、廉価な労働力を求めているからであって、汚染天国を求めているからではない。・・・多くの企業が本国と同じ最先端のクリーンな技術を導入して、世界各地に工場を建設している。それはその種の標準化自体が経費削減につながるからにほかならない。
P312:豊かな国に対する外国投資は、貧しい国に対する外国投資に比べて、汚染産業向けである可能性が遥かに高い。また、汚染産業向け外国投資は、アメリカに対する外国投資のなかで最も成長している分野である。これに対し、クリーン産業に対する対外直接投資はアメリカの対外投資の中で最も成長している分野である。言換えると、外国企業はアメリカに汚染産業をもたらし、アメリカ企業は世界にクリーン産業をもたらしている。
P313:「底辺に向かう競争」−この物語は、顧客と発展途上国を犠牲にして特権産業を利する新たな方法を探している保護主義者に都合よく書かれた怪談である。
保護主義そのものが莫大な環境コストを生み出すことがある。−その最たる例がEUの多機能型の共通農業政策:イギリス一の富豪であるウェストミンスター公は、2003年から20004年の間に448000ポンドの補助金を受け取った。
P315:1998年、アメリカ国内の砂糖生産者に10億ドルの補助金が支給されたが、その半分は僅か17の農家の手に渡った。(消費者は20億ドルの費用を負担しており、半分は全くの無駄だったことになる)
P316:財が国境越えても・・・CDプレーヤーを大阪湾からロサンゼルス港に運ぶ輸送コストは、CDプレーヤーをロサンゼルス港からアリゾナへ運ぶ輸送コストはもちろん、ロサンゼルス市内のベストバイの支店に運ぶ輸送コストすら下回る。
P317:国民一人当りの所得が5千ドル前後に達すると、自動車から排出される汚染物質による被害は軽減する(例:メキシコ)
P320:「搾取工場」は衝撃を与える世界の貧困問題の症状であって、原因ではない。労働者は自らの意思でそこで働いている。他の代替策の条件より「良い」のである。・・・貧困問題は、発展途上国で作られた靴や衣類の不買運動をしても解決されない。
P322:2001年、ニューヨーク市議会は、「賃金水準と労働条件が適正である」工場で生産された物を警察と消防の制服として購入する決議を採択した。この決議は、搾取工場の労働者にとっては有害無益以外のなにものでもない。・・・搾取工場の代わりに仕事を獲得する豊かな国の繊維労働者にとっては朗報になる。この決議案を輸入減少から最大利益を得る縫製繊維労働組合(UNITE)が起草したのは、偶然の一致ではない。
P323:たとえ他国が貿易障壁を削減することを拒否したとしても、自国の貿易障壁を削減しないの愚行である。
P324:1994年に貿易障壁が世界的に削減されたことで、世界所得はおよそ1千億ドル増えたと推定されている。・・・貿易障壁が完全に撤廃されると世界所得は6%以上増える。・・・じつは、自由貿易は大企業を国際競争にさらして希少性の力を破壊するものでもあるため、・・・貿易国にはお互い戦争をしない強力な理由ができる。
P325:貧富を問わず、ほとんどの国では、突出した影響力を持つ特殊利益集団自由貿易に反対する理由がある。・・・関税から大きな恩恵を受けるのは極限られた集団であり、その多くは労働組合と大企業で組織されている産業界である。・・・貿易制限を求める活動が搾取工場を無くす活動にすり替えられている。・・・特殊利益集団は、保護政策に巨額な資金をかけ、積極的なロビー活動を展開して、自分たちの狭い利益を守る価値があることを身をもって知っている。
P327:1934年ルーズベルトが議会の承認無しに通商条約を是認する大統領権限を議会に認めさせてから、アメリカの関税率は20年間で約45%から約10%に低下した。・・・最近の大統領選挙では、フロリダの票が勝敗の鍵を握るようになっており、国民の犠牲の下に”砂糖生産者”が保護されている。
P329:貧しい農家が簡単にコーヒーを栽培できる理由の一つは、フランスやフロリダではコーヒーが育たないため、豊かな農家がコーヒーに高い関税を掛けるよう煽動することに関心が無いからだという点を忘れてはならない。
P330:・・・「世界の大部分の人が豊かにならない限り、コーヒー農家は絶対に豊かにならない」
(中国)
P336:中国の「一人っ子」政策は、貯蓄意欲が高い社会を生み出している。
P348:1985年に訒小平(改革派)は「計画」規模を凍結し、国有企業の自己裁量を認めた。・・・変革に成功するとすぐに来年の計画にとりこまれるようでは、工場の責任者は安全策しかとらなくなる。
P351:重要なのは、誰が企業を所有していたかではない。企業が比較的自由な市場で競争にさらされ、希少性の力が低下し、真実の世界の情報と誘因が市場に持ち込まれたことだった。
P356:インドの経済学者ジャグディッシュ・バグワティは1960年代から80年代にかけてのインド政府政策を「30年に渡る狭量な自給自足政策」と表現した。インド政府は市場に居座り、貿易と投資を阻止するために最善を尽くしたのである。
P357:「経済特区」・・・外国投資企業は、中国企業に対する優遇措置に意義を唱えることで不公平な規則や歪んだ規則を是正させ、中国企業は、利益を香港に送って「外国投資」として本国に還流させることで外国企業に対する優遇措置の裏をかいた。
P360:ハンセン病はビール一杯分の値段で治せる病気だ。