累犯障害者

累犯障害者

累犯障害者−獄の中の不条理− 山本譲司

P13:『矯正統計年報』「新受刑者の知能指数」2004年−新受刑者32090名のうち7172名(22%)が知能指数69以下、測定不能者1687名を含めると3割弱は知的障害者
P14:知的障害のある受刑者の7割以上が再入所者。
福田九右衛門
「だめだめ、食い逃げとか泥棒とか、そんな悪いことできん」
「でも、火をつけると、刑務所に戻れるけん」
P18:福田は下関で放火事件を起こす半日前、北九州市内のある区役所を訪ねていた。「住所がないと駄目だ」と相手にされなかったようだ。「刑務所から出てきたけど、住むところがない」と何度も言ったが、相談にものってくれなかったという。
「刑務所は安心。外は緊張するし、家は怖かった」
第一章 レッサーパンダ帽の男
山口誠
「(レッサーパンダ帽を)犬の帽子だと思っていた」
知能指数49程度で小学3年生レベル。
P40:保護観察停止後、所在の発見報告によって、保護観察停止は解除されてしまう。
「山口家の家庭環境に問題はなく、家族関係も円満である」事件56日前の保護司の報告。
P45:山口家が福祉行政との接点を持つ機会は、何度もあった。それは山口被告が事件を起こす度に訪れていた。
P55:知的障害者が満面の笑みを浮かべながら、尖った箸の先端を私の方に向け、近づいてきた。福祉施設の職員に聞いてみると、前日の夜、刑事ドラマを見ていた際、犯人役の俳優がナイフを手にして、相手を従わせるシーンが在ったらしい。どうやら彼は、その場面を、「二人が仲良くなった」と捉えて頭の中にインプット」したようである。
P56:一審判決の5日後、山口被告は、自らの意思で控訴した。弁護人への相談はない。
P57:反省という意味がよく理解できていないようだ。
第2章 障害者を食い物にする人々−宇都宮・誤認逮捕
P64:・・・彼等は他人からの言葉に影響を受けやすく、時には自分の記憶よりも人の話の方が優先し、その結果、現実とフィクションとが混同してしまう。彼等知的障害者の多くは、他人との会話の中で、相手と自分との力関係を鋭敏に感じ取っている。そして、相手が「怖い人」だと察すると、叱責されることや反論されることを恐れ、ただただ迎合的な受け答えに終始してしまう。相手に言われるがまま、平気で事実とは異なる発言をし、それが彼等にとっての現実となる場合も有り得るのだ。たとえ荒唐無稽な話であろうと、いとも簡単に頭の中に貼り付けられる。
P73:「物証なし」にも拘わらず、宇都宮地検はこの重度の知的障害者(精神年齢3歳から5歳)を起訴した。
P84:「オウム返し」なのだ。
副島洋明弁護士
P97:廃品回収のつもりで、他人の所有物を持ち去り20回ほど「窃盗」容疑で逮捕された。彼には、回収して良い者と悪い物との区別が、全くつかない。
P101:知的障害者を「カモ」にしたい暴力団と、彼らを「厄介払い」したい病院とが結託して・・・
P102:福祉行政は、「ヤクザによる障害者の囲い込み」を知りながら、見て見ぬ振り・・・
第3章 生きがいはセックス−売春する知的障害者たち
P107:「婦人保護施設」全国に50ケ所
P111:「・・・少年院って楽しかったな、中学校で同じクラスだった子が、何人もいたし」
「・・・一緒に寝ている時の男の人は、優しいこと言ってくれるから大好き」
P119:横浜市「自立生活アシスタント派遣事業」
第4章 閉鎖社会の犯罪−浜松・ろうあ者不倫殺人
P136:「デフ・ファミリー」
細江幸司
P140:1995年「刑法40条の削除」
P142:「僕は昭和54年まで、いろんな刑務所で懲役やったけど、受刑者のなかで耳の不自由な人は一人も見かけなかったな」安部譲二
P144:聾唖者が用いる手話は日本語とは別の言語であって、健常者が学習する手話と比べ、文法や表現方法に大きな違いがあるのだそうだ。健常者である聴者が使う、いわゆる日本語対応手話は、中途失聴者向けには有効かもしれないが、生まれながらの聾唖者には外国語のように思えてしまい、非常に分かりづらいものだという。・・・聾唖者の手話は手以外の動作が、文法上極めて重要な役割を果たしている。
P145:−けいさつの中 つうやくの人の手話 よくわからないことが多い ウソつうやくする。
P155:「耳の聞こえない人たちが、全てそうだとは思いませんが、兄夫婦やその息子を見ていると、どうしても、知的レベルの低さと常識のなさを感じてしまう」
P163:聾唖者の中と、聴者社会では全くの別人
P164:事件当時までの三ヶ月間、被害者は加害者に対して5416回の携帯メール、同じく加害者から被害者へは7312回。各一日平均51回と68回。・・・携帯メールで聾唖者の世界は一変した。
P170:抽象的な話は、一向に伝わらなかった。
P171:文章読解力に優れている聾唖者もおり、聴者と同様、言葉によって物事を思考するらしい。だが、殆どの聾唖者は、手話で考え、手話で夢を見るそうだ。
第5章 聾唖者暴力団−「仲間」を狙い打ちする障害者たち
P179:「加害者と被害者 どちらも聾唖者になる事件 多い」
P181:36歳の聾唖者は「生活費に困ったので、聾唖者団体の名簿から金を持っていそうな人を探し出して、犯行を計画した」
P185:聾学校では手話を公式な言語として認めておらず、口語中心の教育がなされている。・・・殆どの教科が、その分野の知識を高めるための授業ではなく、単なる発音練習の場と化してしまうのである。全ては聴者に近づけるための訓練だ。
P187:遠回しな表現はデフ・コミュニティでは好まれない。
P188:「聴者がキャスターの時は、『手話ニュース』は絶対見ない。なぜなら、私たち聾唖者には、何を言っているのか殆ど理解できないからです。だから、私がニュースを見るのは、聾唖者である木村晴美さんがキャスターをやっているときだけです」
「九歳の壁」
終章 行き着く先は何処に−福祉・刑務所・裁判所の問題点
P205:伊勢崎市・女性監禁餓死殺人
P215:『矯正統計年報』「出所者の帰住先」−2004年の出所者総数29553名中、社会福祉施設が受け入れた出所者は、24名に留まる。・・・福祉の現場は、前科が加わった障害者に対しては概して冷淡なのだ。
P218:刑務官「・・・要するに『障害者とか年寄りの受刑者は、また刑務所に戻りなさい』って言ってるようなもんだ」
P222:『障害者白書』平成18年版によれば、知的障害者が約45万9000人となっているが、この数は非常に疑わしい。人類における知的障害者出生率は、全体の2%から3%と言われている。だが、45万9000人だと、我が国総人口の0.36%にしかならない。欧米各国では、国民全体の2%から2.5%と報告されている。
・・・要するにこの45万9000人というのは障害者手帳所持者の数なのである。
『獄窓記』