大腸菌 〜進化のカギを握るミクロな生命体

大腸菌 〜進化のカギを握るミクロな生命体

大腸菌−進化のカギを握るミクロな生命体 カール・ジンマー
P14:1885年、テオドール・エシェリヒがE・コリを単離。
P38:ペプチドグリカン層
P41:シデロフォア
P45:E・コリから見た水は、鉱油のように粘り気がある。泳ぎを止めると100万分の一秒後に急停止する。一瞬にして前に進めなくなる。
P46:泳ぐかよろめくか−セリン濃度が上昇していることを感知している間は長くまっすぐ泳ぐ。よろめいた拍子にセリン濃度の低い場所に方向転換してしてしまうと、泳ぎは短くなる。・・・そしてセリン濃度が高い場所に入るや、目的なく彷徨う泳法に切り替えて、その場に留まる。
P51:FtsZ、MinD
P52:「定常期」
フランソワ・ジャコブ、ジャック・モノー
P59:「ラクトース・オペロン」
ウーリー・アロン「ノイズ・フィルター」
P67:「FlhDC」→「鞭毛製造遺伝子」→「鞭毛」→「FlgM」→「FliA」→「鞭毛製造遺伝子」
「FlhDC」→「FliA」→「鞭毛製造遺伝子」→「鞭毛」→「FlgM」→「FliA」→「鞭毛製造遺伝子」
フィードフォワード・ループ」
ロバスト
「熱ショック蛋白質
P71:ジョン・ドイル
P79:ダニエル・コシュランド
P81:E・コリの一個体が作り出す蛋白質の「量」は予測不可能。・・・遺伝的に同一のエ・コリ・コロニー内で個性の差が現れるのは、この予測不能蛋白質の突発的増産(バースト)。
P85:「メチル基」−一卵性双生児は遺伝子は同一だが、メチル基のパターンは生まれるまでに独自のものとなっていて、その後も違ってゆく。
2002年テキサス州の三毛猫レインボウのクローンCcは灰色ストライプだった。
P89:K12の株だけでE・コリを語るのは、サテンのクッションでのうのうとしているポメラニアンだけでイヌ科を語るのに等しい。
P90:胃酸に含まれるプロトンが侵み込むのを感知すると、E・コリはそれを吐き出すポンプを細胞膜に急造する。胃酸から身を守るために必要な蛋白質以外の蛋白質の製造を中止する。
大腸内では食料の流れが最高速度になる。
P91:腸内の酸素を使いきり、二酸化炭素その他の廃棄物を放出すれば、化学的性質が変わり、他の微生物種の侵入を許す新しい棲息環境が出来る。E・コリのようなゴミ漁り細菌が単純な糖(単糖類)を引き受けることで、他の微生物が複雑な糖をより速く分解できるようになる(らしい)。
E・コリが腸内の酸素を小まめに拾いつけるので腸内の酸素濃度が保たれて、大部分の微生物居住者にとって快適で安定した環境となる。
ヒトは人生のどの時点でも、体内に30種類くらいのE・コリ株を棲まわせている。
P92:ヒトの食べる炭水化物の多くは、消化するのに細菌の助けを借りる。腸内細菌は必須のビタミンやアミノ酸を合成してくれる。食物から身体組織へと移行するカロリーをコントロールする役も担っている。だから、腸内細菌の構成が変わると体重は変わる。
医師は早産児にE・コリ株を与える。
舌でアミノ酸のセリンを感知して互いに集まる。正常な代謝作用の廃棄物としてセリンを排出する。
P95:「バイオフィルム」−微生物の大部分は一生の殆どをバイオフィルムの中で暮らす。
P97:抗生物質も、個々の細菌には効いてもバイオフィルムを相手にすると1000分の一の効き目しかない。
E・コリの化学兵器は「コリシン」−作ったコリシンを排出する経路が無いので、自らの細胞膜に穴を開ける”自殺”酵素を出して自爆する。飛び散ったコリシンは仲間にも降りかかるが、解毒剤を造る遺伝子を持つ。
P99:生活廃水が流れ込まない豪州の湖でE・コリが大発生。この株は異常に頑丈な被膜に包まれている。
P101:1945年、ジョン・ブレーが「夏の下痢」の原因を探る段階で病原性のE・コリ株を発見。
P103:「シゲラ」、「0157H7」
P106:0157H7に感染しても大半のヒトは2から3日で回復する。しかし、20人に1か2人は重症化する。
P109:リチャード・レンスキ−1988年から始まった実験は4万世代後も継続。
P114:サルバドール・ルリア、マックス・デルブリュック
P119:ジョシュア・レーダーバーグ「大当たり仮説」を追試。
P133:トマス・ハクスリー『生存競争と人類におけるその意味合い』
P134:クロポトキン『相互扶助論』−「いつの日か、池に棲息する小さな生き物の研究者が集める無意識の相互援助の事実から、微生物の暮らしからさえも、我々はそれを学ぶだろう」−
P137:1950年代に提唱された群淘汰説は60年代に入ると疑問視されるようになる。ジョージ・ウィリアムズ『適応と自然淘汰
P139:E・コリを<出し抜き>細菌に変える変異は、rposに起こる。ヒトの胃を通過するとき、rposが酸への耐性遺伝子を起動させるが、<出し抜き>細菌はこうした防御の指令を出せないので、たいてい胃の中で死ぬ。<出し抜き>細菌はE・コリの生活環全体では弱い存在。
P140:個体間競争がバイオフィルムの形成を促す。
P142:E・コリの世界なら仲間の協調性を食い物にする<出し抜き>細菌のようなものを、それを私たちは「がん細胞」と呼ぶ。
P144:乳糖は、E・コリにリスクヘッジを迫る。
P145:バイオフィルムの中にいるE・コリのおよそ1%は数時間から数日にかけての抗生剤攻撃をしぶとく生き延びる。生き延びた菌は再びバイオフィルムを造り、宿主を病気にさせる。この<しぶとい>細菌は、抗生物質に抵抗する特別な遺伝子を持っている訳ではない。先に死んだ仲間と遺伝的には同一だ。・・・ナタリー・バラバンは2004年に、E・コリ一個分しか入らない幅の溝の中で増殖させ(子孫は一列に並ぶ、その長さを測れば増殖速度が求められる)、数世代増殖させた後に抗生物質を浴びせた。生き残った<しぶとい>細菌は、増殖を完全には止めてはいないものの通常の細菌より増殖速度が極端に遅い。<しぶとい>細菌は抗生物質を浴びせる前から通常の細菌より増殖速度が遅かった。
P150:<加虐>と<平和主義>
P153:二枚貝は400年生きることができる。
P157:エリック・ステュワートは細菌のキャップが古くなると育ち方が遅くなることを発見した。
P164:今日世界中で年に1万トンの抗生物質が使われている。命を救える場合もあるが、大半は無駄遣いだ。医師がばら撒く抗生物質の処方箋の3分の2は役に立っていない。
P167:マイケル・ザスロフ−アフリカツメガエルの皮膚から殺菌分子(抗菌ペプチド)を単離、これは負に帯電しており、正に帯電している細菌の細胞膜には付着するが、ヒトなど真核生物の細胞には付着しない。細菌に付着すると、細胞膜に穴を開け、破裂させる。
P173:ジョン・ケアンズ等の1988年「水、水、水はいたるところにあるのに、飲める水は一滴も無い」の実験−通常の突然変異発生率であればコロニーは一個しか出来ない筈が、100個も出来ていた。「細胞は、どの変異を起こすか選ぶメカニズムを持っている」→「指向性変異」→「超変異」=危機に瀕するとE・コリの変異速度が100倍から1000倍に上がる。
P175:E・コリは餓死を避けようとしているときに、乳糖の消化を制御している遺伝子に変異があれば大当たり(ジャックポット)になるということは「知らなくていい」。ともかくDNAを頻繁に変異させてさえいれば、どれかが当りくじを引いてくれる。
P182:「遺伝子水平伝播(移動)」
P184:抗生物質との戦争において、細菌は「兵器」を単に祖先から受け継ぐのではなく、「細菌社会」から直接集めてくる。
P187:E・コリとサルモネラ菌は一億4000万年前に別れる。
P188:哺乳類と鳥類の祖先は別々に、体温調節能力を進化させると両者の体内は、細菌の理想的な生息地になる。
P191:「K12、O157H7、CFT073」株が共有する遺伝子は40%しかない。→E・コリの「パンゲノム」は現在11000個で、18000個を超えると言われている。
P192:「遺伝子カセット」はランダムな寄せ集めではなく、宿主細胞に毒素を注入するための注射器のような、複雑な構造を組み立てる「指示書一式」であることが多い。・・・海洋にいるウィルスは、新しい宿主に毎秒2000兆回、遺伝子を移動させているという。
P195:「水平遺伝子移動、遺伝子欠失、自然淘汰
P196:ヒトはO157H7にとっての「正しい宿主」ではない−ヒトの体内には滅多にいないが、家畜の体内には多くいる。ヒトでは命に係るが、家畜には無害そのもの。・・・O157H7に感染した羊は癌を引き起こすウィルスに強い。毒が羊の免疫系を刺激するか、癌を引き起こすウィルスに感染した細胞に、自殺を促しているらしい。・・・O157H7は現状の形態になって1000年も経っていないので、人類の畜産業がO157H7を繁栄させる環境を用意したと考えられている。
P197:AO34/86として知られるE・コリ株は、下痢を引き起こす細菌の侵入から宿主を守ってくれる。・・・2005年に発表されたAO34/86のゲノムの中には、O157H7をはじめとする狂暴菌株が使っている「兵器」があったが、AO34/86はこれを善行に使う。
P199:毒を造る決定権はE・コリではなくウィルスにある。ウィルスはストレスを受けると毒を造る。抗生物質に出会うとウィルスは宿主を殺して逃げようとする。その結果、出血性の下痢が始まる。
P200:制限酵素は耐久力があり修飾酵素は短命だというバランスを利用して、プラスミドなしのE・コリを崩壊させる。・・・E・コリはいったんP1ウィルスにとりつかれたら、P1なしには生きられない。
P201:小林一三「ウィルスは制限酵素と修飾酵素を使って、宿主を乗っ取ろうとする他のウィルスと戦ってきた」
「ウォルバキア」は精子にとり付く事が出来ないので、ウォルバキアの遺伝子とそのオスの宿主の成功は相容れない。
P202:幸運にも生殖細胞にとり付いてから宿主細胞を抜け出す能力を失った「ゲノム寄生体」はヒトゲノムの8%を占める。
P204:『E・コリ・ゲノムK12の全ゲノム配列』−EcoCyc
「パリンプセスト」
P209:カール・ウース −16SrRNA
P219:2005年「キャッツミラー対ドーヴァー校区」裁判
P222:1980年代に最高裁が創造科学は科学で無いと判断されて「創造説」の言は「インテリジェント・デザイン」に置き換わる。『創造生物学』→『パンダと人間』
P228:ブラウン大学のケネス・ミラー −「3型分泌システム」
P231:リーハイ大のマイケル・ベーエの法廷証言「見た目以外に、何を基準にすると言うんです?」がジョーンズ判事にインテリジェント・デザインは「非科学」と判断させるに十分だった。
P233:フラジェリン
P247:ロナルド・ブレーカー「リボスイッチ」
P252:パトリック・フォーテール「一本鎖のRNAウイルスがペアになって二本鎖のDNAを作った」二本鎖のDNAになれば、寄生している宿主からの攻撃をかわすことができる。遺伝情報をのせている脆い塩基部を頑丈な鎖でガードする格好になるのだから。・・・RNAベースの生命体だった宿主の中に安住の地を得たDNAウィルスは、宿主から逃げ出すときに自身の蛋白質の殻を作る遺伝子を失う。そして裸のDNA、つまり、自分自身のコピーをコードするだけ遺伝子が宿主内に残った。
P273:ジェームズ・ワトソン「大衆は、怪物は存在しないと知っているからこそ、怪物の話をしたがるのだ」
P276:現在のチーズの殆どはE・コリ製レンネットで作られる。
P278:リン酸塩を分解するE・コリの遺伝子を豚に施して糞に含まれるリン酸塩を75%カットした。
P291:ヒト遺伝子を組み入れたE・コリK12は汚水、水、動物の腸内で急速に消滅する。・・・人々が農場や食肉加工場、下水道を通して知らず知らずの内に組み換えてしまうE・コリの方が危険である。
P292:人々が遺伝子操作された怪物の登場を待っている間に、O157H7が出現した。1975年遺伝子組み換えE・コリの潜在的危険性を考えるアロシマ会議のあった同じ年に、一人の女性がO157H7に罹ったのが記録に残る初の症例となった。
P296:ゴールデンライス=ラッパズイセンと細菌からとった遺伝子を米ゲノムに入れてビタミンA含有のコメを開発。
P298:「グリホサート」
P299:雑草がグリホサート耐性遺伝子を得たのは、遺伝子組み替え作物との接触によってではなく、昔ながらの方法である進化で得た。
P309:全人類の70%に見られるマイクロセファリンはホモサピエンスに進化したずっと後になってヒトゲノムに入り込んだ。・・・マイクロセファリンは28000年前に絶滅したネアンデルタール由来のものであるが、脳の発達に係る。