人間らしさとはなにか?―人間のユニークさを明かす科学の最前線

人間らしさとはなにか?―人間のユニークさを明かす科学の最前線

  • 作者: マイケル・S.ガザニガ,Michael S. Gazzaniga,柴田裕之
  • 出版社/メーカー: インターシフト
  • 発売日: 2010/02/01
  • メディア: 単行本
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人間らしさとはなにか? マイケル・S・ガニザガ
1章 人間の脳はユニークか?
P30:脳の大きさを決める特殊な調節遺伝子はマイクロセファリンとASPM(異常紡錘体様小頭症関連遺伝子)の二つ
マイクロセファリンの遺伝子変異体の一つは37000年前に発生、ASPMは5800年前
P39:10野の「顆粒前頭前皮質」←自動的な反応を抑制する、斬新な反応を見つけ出すには欠かせない。
P43:他の霊長類にも言語野と道具使用の領域に相当する皮質野があり、これらもどちらかの脳半球に偏在している。
P54:「KE家系」と患者CSの「転座」
P59:類人猿と人間の脳の唯一の違いはニューロンの数ではなくて、ユニークな所にある。
2章 デートの相手にチンパンジー
P60:欧州では824〜1845年まで動物も裁判にかけられた。・・・動物に全責任があるのか、その所有者にも責任を負わせるべきなのかは、多少曖昧だったようだ。
P72:脳の一部は生涯成長を続けるらしいが、それは新しくニューロンが加わるからではなく、ニューロンを取り囲む髄鞘(ミエリン鞘)が成長を続けるから。
P76:「視点取得」「志向意識水準の次元」
P79:「アリーとアンのテスト」
P95:手振りと言語が関連している。
P107:ヤノマモ族男性の30%は争いが元で命を落とすが、ゴンベ国立公園のオスチンパンジー30%も争いで命を落とす。
「集団化のコスト説」
3章 脳と社会と嘘
P119:「科学啓蒙のためのチャールズ・シモニー教授職」
P121:・・・社会的関係は全て、もともとは捕食者に食べられるのを避ける為に選択された行動の副産物に過ぎない・・・
P131:熱帯淡水魚類は、長鎖不飽和脂肪酸を含む脂質比率が人間の脳に近い。マイケル・クロフォードはホモ・サピエンスはサバンナでは進化し得ず、水辺に棲み岸沿いで食物採取をしたと結論する。
P134:ヒト科にとっては、同じヒト科の他の集団が主要な捕食者になった−リチャード・アレグザンダー
P135:実際のところ、脳の情動中枢は縮小してきている。ロビン・ダンバーによれば、社会集団の大きさを限定しているのは、情報と社会関係を操作し調整する能力だと言う。
P136:チンパンジーの社会集団は55匹、人間大脳新皮質から割り出した社会集団の大きさは150人・・・今日、狩猟採集部族の典型的規模は、一年に一度伝統行事のために集結する同族の集団の場合、150人−ダンバー
P137:噂話は他の霊長類の社会的グルーミングに相当する。噂話は、不届き者を抑え込む手段として進化した−ダンバー
P138:人間は起きている時間の平均80%を他者と一緒に過ごしている。毎日平均6〜12時間を、一対一で、会話して過ごしている。・・・80〜90%は周知の人物に関する世間話−ニコラス・エムラー
P140:男性が女性より噂話に時間を使わないのは、女性が同席している場合だけだ−ジョナサン・ハイト 会話に加わる人数は約4人止まり、4人を超えると分かれる。4人で会話する場合話しているのは1人で他3人は聞いている−ダンバー
P145:誤魔化しを見破る能力は幼少期に発達し、経験や慣れに関係なく機能する。また、人間は誤魔化しには気づくが、「故意でない」違反には気づかない。−コスミデス
P147:誤魔化しをした者に罰を与えるプレーヤーは信用と尊敬を勝ち取り、みんなのためを思っていると看做される−パット・バークリー
P151:テストした12000人のうち、生まれつきウソを見破るのが巧いのは20人・・・得意な職種はシークレットサービス・エージェントと心理療法セラピスト−ポール・エクマン
P155:結果を無視して自分に良い仕事を割り振る者は、コインを投げたというだけでそうしなかった者より自分は道徳的だと考えていた・・・コインが思い道理にならなければもう一度投げる・・・P156:人一倍道徳的責任感を持っている者が人一倍道徳的誠実さを持っていることにはならず、むしろ彼らは人一倍偽善的だったのだ!彼らは見かけはいかにも道徳的(コインを投げる)だったが、実際に人並み以上に道徳的(コイン投げの結果どおりに仕事を割り振る)ではなかった。・・・唯一、参加者たちが誤魔化しをしなかった(しかも全員が)のは、鏡の前に座って決めたときだった。−ダン・バトソン
P165:捜索や救助に従事する人は、英雄的行為に走らず、不用意に危険を冒さぬよう、わざわざ訓練を受ける必要がある。・・・軍隊の飲酒は心の痛みを感じさせないためにある。
P169:異性の兄弟姉妹と同じ家に住んだ年数が長い経験者ほど、第三者による近親相姦をより道徳的に罪深いと考えた。血縁には関係なかった(養子でも親の再婚相手の連れ子でも結果は同じ)−デブラ・リーバーマン
P171:「解釈装置モジュール」
P172:社会的交換の回路では、たまたま相手が自分の好意に応じなかったのに気づかない方がよく、予防用の回路では、誤魔化しに全て気づくことが望ましくなっている。−ローレンス・フィディック
P177:人を一人殺した償いに毎回身を危険に晒して1人ずつ人命を救う場合、罪の償いに救命するとした答えの中央値は25人
P179:自動的な物真似が好感を呼び、社会的相互行為を促進する−ジョン・バージ&ターニャ・チャートランド ・・・初対面のとき、第一印象は、長い間その人と接し、相手を観察した後の印象と殆ど変らない。実際、初対面の人の性格について別々の人が驚くほど似通った意見を持ち、その意見は当人の自己評価と驚異的なまでの一致を見せる。
P182:「トロッコの問題」−自ら手を下す個人的なジレンマでは、情動や社会的認知を司る脳の部位に活動の増加が見られた。非個人的ジレンマは古代環境にはなかった。その種のジレンマに遭遇しても、脳は初期設定された反応パターンを持ち合わせていないので、意識ある思考を行なわざるを得なくなる。非個人的ジレンマの場合、抽象的推論や問題解決に関わる脳の領域に活動の増加が見られた。−ジョシュア・グリーン
P182:・・・より大きな善を達成する副産物として害悪を引き起こすのは許されても、その善を達成するために害悪を「利用する」ことは許されないのだ。
P187:人類は長続きする互恵的な社会的交換に必要となる二つの能力を進化させた。1)行動を暫く(満足感を得るのを先送りする)抑制する能力。2)互恵的交換で誤魔化しをする者を罰する能力。
P188:「互恵・苦痛・階層・連合体・清浄」の五つのモジュール−クレイグ・ジョセフ
P193:知らない人にクリスマス・カードを送ると、大半の人は返事のカードを返し、送り主の正体を尋ねすらしない。・・・慈善団体には良く知られているが、寄附を募る手紙に相手のアドレス・シールなどちょっとしたものを同封すると、寄附額が倍増する。
P194:「最後通牒ゲーム」で公平な態度をとったのは、互恵の考えに捉われていて、自分の評判を落としたくなかったからであり、自分が誰だか判らない場合や優位にたっている場合には公平さは問題にはならない。・・・P195:血縁関係を超える相互取引が盛んな社会ほど、提示金額は公平になった。
P198:人種の認識ではなく連合体の認識に特化されたモジュール−人間は変化する同盟関係を見極めるのに長けており、人種が連合体の目印ではない社会的な世界に適応できる
P200:完全な嫌悪感の反応を示すのは5〜7歳になってから・・・汚染に対する感受性は人間以外の種では見られない。
P202:蛇を恐れるよう教え込むのは至極簡単だが、花を恐れるよう教え込むのは不可能に近い。
P203:ヒンドゥー京都は清浄モジュールを階層モジュールや連合体モジュールと組み合わせて、カースト制度を作り上げた。
P205:淋菌やクラミジアなどの性感染症バクテリアに感染して卵管が傷つくのが今では不妊の最大の原因
P206:道徳に背いた者の噂話が一番盛り上がる。
P208:「脳は優秀な弁護人の様なものだ。守るべき権益を与えられると、その道徳的・論理的価値を相手に納得させようとする。実際にその権益にそうした価値があるか否かは関係ない。弁護人と同じく、人間の脳は勝利を追及するのであって、真実を追究するわけではない。弁護人同様、脳はその美徳より技巧のお蔭で賞賛されることがある」−ロバート・ライト
P210:ミルグラムの「服従実験」の追試には国によって程度差がある。ドイツでは85%が最高レベルまで電気ショックを与え続けたが、オーストラリアでのその割合は40%である(流罪者の末裔だからか?)、アメリカは65%。
P211:知能と抑制 犯罪行動は人種や社会・経済的な階級とは関わり無く、知能と反比例するという。アウグスト・ブラシは、知能指数が正直さと正比例することを発見した。・・・P212:未就学のときマシュマロを食べるのを暫く我慢できた子供は、苛立たしい状況でうまく自制が利き、誘惑に負けることが少なく、より聡明で−ウォルター・ミッシェル
P220:尊敬、忠誠心、服従といった美徳は全て宗教的な信念へと変貌する。
P222:ギャレット・ハーディンの「共有地の悲劇」は共有地と誰でも自由に入れるオープン・アクセスの土地を区別していない。この現象は「誰でも自由に入れる土地の悲劇」と命名すべきだった。・・・ハーディンは大抵の牧草地は誰もが自由に使える土地ではない(各構成員が放牧権・占有使用権など何かしらの権利を持つ)のを知らなかったのだ。・・・残念だが、共有地の多くで起きていることをハーディンの様に誤解したため、多数の経済学者や環境保護者が1970年代に、誤魔化しの問題(多くの共有地にこの問題は存在しなかった)を解決するには土地を国有化するしかないと結論づけた。コミュニティに管理された多くの土地が一つの広大な政府管轄の土地に生まれ変わった。すると、漁場では乱獲、草地は食い荒らされ、野生動物が際限なく狩られた。・・・不心得者を見つける機関は整備されていなかったし、利用できるうちに思う存分利用しない馬鹿はいない。−マット・リドレー
P224:管理できるものは所有できると判った−エレノア・オストロム
P229:「盲視」
P231:生後42分〜三日の新生児が、他者の表情を正確に模倣できる。
P232:幼児は模倣遊びを使って相手が誰かを確認するのであって、顔立ちだけで相手を判断しない
P236:誰かを意識的に真似るのは難しい。ひとたび意識的で随意の模倣行動をとろうとすると、やたらに時間がかかる。・・・無意識に動作をシンクロさせるのには21ミリ秒。・・・分離脳の患者はどちらの半球も不随意の反応には応じられるのに対して、随意の反応には左半球しか応じられない。そのうえ、随意の場合とは対照的に、左半球不随意の反応を実行するために二つの異なった神経系を使う。→「パーキンソン氏病」は顔面の不随意で自然発生的な反応を制御する神経系を冒す。
P250:両側の島に損傷を持つ珍しい患者は、表情や行動、行動の描写、写真から、嫌悪感を認識できない。
P251:両側偏桃体損傷の患者は恐ろしい状況が頭では理解しているにも関わらず、他者の表情から恐れを読み取ることが出来ない。
P254:情動の伝染はサル、ラット、ハトにも見られる。・・・食餌にレバーを押すように訓練されたラットが、レバーを押すと別のラットが電気ショックを受けるのを見ると、押すのを止める。
P263:競争相手の顔や支持できない政治家の顔、人は真似できない。
P275:他者の視点に立つときには、前頭極皮質と直回を含む右下頭頂皮質と腹側内側前頭前皮質が著しく活性化する。・・・体性感覚野は、人間が自分の視点に立つときだけ活性化する。
P276:体外離脱体験は自分の体の多感覚情報を側頭−頭頂接合部がうまく統合できなことに因る。
P285:人は随意に意図的に一つの抽象的な視点から別の抽象的な視点へ容易く柔軟に切り替えられる。私たちはシュミレーションしている情動を想像力だけで巧みに操れる。
P305:25万年前に作った斧は、彫刻部分の中央に化石が組み込まれていたが、全く使われた形跡が無かった。
P319:人間は条件付で正しい情報の利用量という点で、他の種とは根本的に違う−コシミデス
P323:リチャード・ラットウ「斜線効果」
P326:人はフラクタル密度が1.3のスカイラインを含む景色を好む−リチャード・テイラー
P345:音楽家は数学が得意になる?
P357:リスが「蛇の雛形」を消失するには一万年に渡り蛇と遭遇しない生活を営む必要がある−リチャード・ロス
P360:インパラが認識すべき捕食者は14種あるが、インパラは、その全てをたった一つの種として認識しているかもしれない。すなわち、目が前向きについた、走る動物として。
P363:生後九ヶ月の幼児も物体に本質があることをすでに信じている。
P365:七面鳥に変装して、鳴き声を真似ていた猟師に背後からピューマが近づいて来る。
P366:あなたの飼い犬は、自分で見たり、聞いたり、嗅いだりできるあなたに忠実なのであって、あなたの本質に忠実なのではない。
P378:自閉症の「精神盲」−他者が願望や信念、目的、意図、つまり心を持っていることが理解できない。自閉症の子供は「心の理論」を持たない。直感的心理学を欠いている。
P380:自閉症は人の顔を見ているとき、(顔認知の)紡錘状回の活動が目立って低い。
P384:ときどき間違っているが、滅多に間違わないが遅いよりも無難だ。
P400:長距離接続するニューロンの殆どは、第2層と第3層の錐体細胞から始まる。これらの層は実際、背側外側前頭前皮質と下頭頂皮質で厚くなっている。
P405:注意と意識は別物だ。意識を集中していた筈なのに、別の事柄に考えが行ってしまう事がある。
P407:半側無視は、刺激の意識的自覚の欠如らしい。
P410:分離脳患者は巧妙に脳の結合性の喪失を埋める。頭を動かして両方の脳半球へ視覚的情報を入力し、同じ目的の為に、目にしたものを声に出したり象徴的な手の動きを見せたりする。反対の脳半球に合図できないときにようやく、二つの脳半球の異なる能力を示すことが出来る。
P411:どちらの脳半球も顔面筋と近位筋(上腕や腕)を動かせるが、遠位筋の制御は分担が決まっているので、右手は左半球が制御する。自然発生的な表情はどちらの脳半球も生み出せるが、随意の表情は優位半球である左半球にしか生み出せない。
P412:反射的な(ボトムアップの)注意の方向付けは、両半球で独立して起きる一方、随意の(トップダウンの)注意の方向付けは、左半球に優先的に制御権を与えつつ、両半球の競争を伴うことが伺える。しかし、右半球が全視野に注意を払うのに対して、左半球は右視野にしか注意を払わない。これによって、半側無視患者の問題の一部が説明できる。右下頭頂葉が損傷しても、左頭頂葉は無傷だ。しかし、左頭頂葉は体の右側だけに視覚的注意を向ける。だから左視野で何が起来ているかに注意を払っている脳の領域はないのだ。
P414:「頻度マッチング」と「最大化」・・・分離脳患者の左半球は頻度マッチング戦略を、右半球は最大化戦略を使う。・・・右半球は顔認識のように自分が特化した処理で扱う刺激が与えられたときには頻度マッチングを使い、特化していない左半球はランダムに反応する。これは、片方の脳半球が課題に特化している場合、もう片方はその課題の主導権をそちらへ譲り渡すことを示唆している。
P415:「解釈装置」
P416:左脳は必ず答えを見つけ出す。
P417:「重複記憶錯誤」
P423:カプグラ症候群
P427:例えば「親切」という言葉なら、「親切とはどういう意味ですか」と訊くより「あなたは親切ですか」と訊いた方が思い出しやすい。そこで研究者は自己意識が他の情報とは別の手法で保存されていると思うようになった。
P429:エピソード記憶意味記憶の主な違いは、コード化する情報の種類ではなく、「システムがコード化や想起する際に伴う主観的経験の有無」だ。
P430:二歳児が生後一年一ヵ月で見たものを思い出せることは実証されているが、記憶の一部に自分を含めることが出来るのは少なくとも1歳半、確実には3,4歳・・・4歳未満の子供は時間の尺度を知らない。
P432:人間は自分の人格特性に関する質問には、特性を要約した記憶にアクセスすることにより答えられ、具体的なエピソードの記憶を辿る必要はない。エピソード記憶は、使える特性要約が無いとき(ある特定の特性に対して極端に経験が少ないとき)にだけ呼び出される−スタン・クライン
P435:右脳は左脳より正確で、仮説は立てずに情報の「最大化戦略」をとる一方、左脳は「頻度マッチング」をして仮設を立てる。
P440:人間以外の霊長類に見られる模倣の証拠の殆どは、行動そのものを真似るのではなく、行動の結果を再現する能力があることを示す−ジョゼップ・コール
P442:意味記憶エピソード記憶は別々に発達する。
P443:時を理解して計画を立てているように見える動物の能力は時の概念というより、およそ24時間を一周期とする「概日リズム」に関連した体内の合図によって管理されている。・・・初めて冬眠するクマは冬眠を計画できない。寒くて長い冬があることさえ知らない。
P445:カケスは食べ物の貯蔵戦略を適宜変えて、他の鳥に盗まれる危険性を最小限にする。・・・過去に他者の隠し場所から食べ物を盗んだことがある場合、このカケスは自分が食べ物を隠しているところを他のカケスに見られると、そのカケスがいなくなってから、その食べ物を隠し直す。
P449:メタ認知は人間が自分の反応について「尋ねられて」初めて登場した(と思う)
P453:意識とは創発的な特性であり、それ自体はプロセスではない。
P487:情報の貯蔵における進化の次のステップは、体内に貯蔵できるようにすることかもしれない。
P495:マーリン・ドナルドの「リハーサル・ループ」
P515:「脳は問題への答えを計算しない。脳は記憶から答えを引き出す。じつのところ、答えはとうの昔に記憶に蓄えられていたのだ。記憶から何かを引き出すのは、ほんの数ステップで済む。遅いニューロンでも充分間に合うし、そればかりか、ニューロン自体が記憶を構成している。皮質全体が記憶システムだ。脳はコンピュータとは似ても似つかない」
P520:「人間の新皮質は、旧脳が起こした行動に基づいて予測をするだけでなく、自らの予測が実現するような行動を起こす」−ジェフ・ホーキンズ