世界の放射線被曝地調査―自ら測定した渾身のレポート (ブルーバックス)

世界の放射線被曝地調査―自ら測定した渾身のレポート (ブルーバックス)

世界の放射線被曝地調査 高田純
P17:原子爆弾発生エネルギー内訳は爆風50%、熱放射35%、放射線15%・・・56グラムの核分裂性物質の連鎖反応でTNT1000トンに等しい・・・広島原爆はTNT換算15000トンなので核分裂したウラン235は800グラム程度・・・地表の原子は中性子を捕獲し放射性元素となる・・・空中爆発した高温の火玉部分(90%)の放射性物質は上空10000メートルに昇り、爆心直下には降下せず残留放射能にはならない。キノコ雲の幹(10%)の放射能は地上から舞い上がった土砂微粒子へ吸着する。これは少しずつ降下(フォールアウト)し地表を汚染する。
P23:広島爆心1000メートルで皮膚表面被曝はガンマ線4グレイ、中性子0.2グレイ、ガンマ線は空気中の水素原子との衝突により遠方では大きな線量にならない。
P24:広島爆発点直下500メートル以内(の遮蔽物)に居た1968-70年被災者調査による生存者78名は平均2800ミリグレイを被曝した。この内1972年から25年間の死亡者は45名、死亡時の平均年齢は74.4歳で、顕著な寿命短縮は現れない。
P29:1970年代の広島土壌中残留放射能調査で検出されたセシウム137の密度は核実験のフォールアウトと同じレベル、黒い雨に含まれていた放射性物質は短寿命であった。
P42:広島・長崎では500ミリシーベルト以上を被曝した場合、被曝線量に比例して癌の発生率が増加するが、200ミリシーベルト以下での癌発生率の増加は認められていない。・・・国際放射線防護委員会1990年勧告では1000ミリシーベルト被曝で致死癌の誘発確率5/100の値を示した。・・・広島・長崎の被曝生存者に遺伝的影響は見つかっていない。この遺伝的影響が見つかってるのはショウジョウバエやマウスを用いた実験からである。ヒトへの影響はこの生物実験からの推定しているだけ、人は10ミリシーベルトの被曝で子孫に遺伝的影響が現れるのは 6/100000 と推定される。
第二部 調査の現場から
第1章 マヤーク・プルトニウム製造企業体周辺での核災害−ロシア連邦チェリャビンスク
P74:1)1949-56年テチャ川へ10万テラベクレルの核廃液放出 2)1957年キシュテムで放射性廃棄物貯蔵庫爆発で7万4000テラベクレル 3)1967年核廃液が投棄されたカラチャイ湖の湖畔に落雷があり、22テラベクレルの沈殿物が舞い上がり、そして10年間エアロゾル2万1000テラベクレルのヨウ素131の放出
マヤーク周辺廃棄物放射能総量は3700万テラベクレル以上、45万人被曝、その内の強度被曝者5万人中1000人が発病した。
P84:魚は鱗(少し背骨にも)にストロンチウム90が蓄積するが、内臓や卵は検出されない。
P86:被曝補償が一ヶ月で100円
第2章 旧ソ連邦での核兵器実験による周辺住民の被曝−カザフスタン共和国セミパラミンスク
P102:ドロン村は少ない方の旧ソ連報告で1600ミリグレイ
P115:煉瓦に含まれる石英の結晶にガンマ線が照射されると、それにより発生した自由電子と正孔が準安定準位に捕獲される。これを500度に加熱すると元の状態に戻り、その際に光る。その発光強度は吸収線量に比例する。
P119:実験場周辺住民の被曝総量として数百ミリグレイ、・・・実験場外環境中の残留汚染は少なく、どの調査地も毎時0.1マイクロシーベルト以下だった。
第3章 南太平洋における米国の水爆実験−マーシャル諸島共和国ロンゲラップ環礁
P122:1954年3月1日ビキニ環礁ブラボー水爆実験の51時間後に救出されたロンゲラップ島民64人の全身外部被曝線量は1.9グレイ、第五福竜丸は爆心地北東150キロ地点で閃光を目撃
P130:甘いたわし−タコの実パンダナス
P132:ヤシ蟹の甲羅からは毎時200カウントのベータ線
P142:1999年の調査ではロンゲラップ島は再定住可能、被災翌日毎時28ミリシーベルトが45年後に0.02マイクロシーベルトに、海抜2メートルの小さな島は太平洋の高潮に現れたか、物理半減期30年のセシウム137が、7年で半減した。
第4章 シベリアにおける核爆発の産業利用−ロシア連邦サハ共和国
P147:1965年1月15日核を利用したダム工事跡には1995年調査で毎時10マイクロシーベルト・・・爆発24時間後のセミパラチンスク市は毎時8.5マイクログレイ、ズナンカ村の爆破3-4時間後の線量は毎時1ミリグレイと想像する。
P160:1997年10月及び1998年3月において、クラトン4、ドウヤカヤン、テヤ村は毎時0.02マイクシーベルトで異常はない
P164:クラトン4の放射性物質は地下300メートルにあると推定、その地層は永久凍土状態にあり、地下水による地表面への漏洩の心配は現在は少ないが、新たなボーリングによる核汚染が問題化している。
第5章 チェルノブイリ事故−厳戒管理地区
P196:物理半減期30年のセシウム137の生物半減期は100日
P201:一部を除く30キロメートル圏やセシウム137の汚染が平方メートル当り1480キロベクレル以上(年間線量5ミリシーベルト以上)の土地は厳戒管理地区と指定され、居住は許可されていない。なお、事故後10年以後の年間被曝線量は、日本の医療被曝線量と大差ない。
第6章 東海村臨海事故−遮断されていた至近住宅街
P205:ウラン燃料転換工場JCOでは、コンクリート屋内の地表約1メートルの高さで20時間に渡りウランが核分裂を継続、臨界終息までに核分裂したウラン235は約1ミリグラム(広島原爆は800グラム)
P221:金沢大学院生小藤久毅らは、住宅街の食卓塩中の塩素35が中性子を吸収する反応により生成されるリン32を測定した。
第7章 放射線被爆地の回復
特別章 家族のための放射線防護−緊急時にあなたができる放射線防護
P243:
・秒速10メートルの風があれば、3時間で100キロ放射性雲が移動
・事故レベル5以上で風下の場合、とりあえず海藻類を即座に摂取し、甲状腺への放射性ヨウ素の取り込みを防ぐ
・マスメディアの示す放射線量を(毎時0.1マイクロシーベルト程度の)自然放射線と比較すること、毎時1000マイクロシーベルト以上は要注意
・放射性雲が通過している間、家を閉め切って、気密性を高める。二階よりも一階の方が空からの放射線がより遮断される
木綿のハンカチーフ八つ折で口を覆えば、1-5ミクロンサイズの放射性微粒子は89%除去できる。
P250:昆布10グラムに10ミリグラムの安定ヨードがあるので、1日に100グラムの昆布を取る。
P259:
・線量当量=吸収線量×線質係数×補正係数:ガンマ線ベータ線が1、中性子線が10、アルファ線は20が用いられる。補正係数は1に近い数字で、これを1と看做せば、ガンマ線1グレイの被曝時の線量当量は1シーベルト中性子1グレイは10シーベルトの線量当量である。
・等価線量=吸収線量×放射線荷重係数
放射能の量:日本の成人体内での「カリウム40、炭素14」あわせて約7000ベクレル
P262:毎日20本30年間の喫煙は4300ミリシーベルトの半致死線量
P264:調査結果を、地元住民や被験者へ知らせるのが、調査の基本的ルールである。政府系調査の多くが、これを怠った(原爆投下後の広島・長崎もそうだった)