行動・生態の進化 (シリーズ進化学 (6))

行動・生態の進化 (シリーズ進化学 (6))

行動・生態の進化 (シリーズ進化学 (6))
2:生得的解発機構
生き物をめぐる4つの「なぜ」/長谷川眞理子
21:BMP4
25:”自然選択による進化”は反証が不可能なので科学ではないという主張は、間違いである。
26:環境により突然変異が増加して適応的な突然変異が生じる頻度が増加する現象はよくしられている。
28:遺伝子浸透:ガラパゴスフィンチはサボテンフィンチからくちばしを尖らせる遺伝子を補充しているとも言える。
29:キイロショウジョウバエ幼虫の食餌探索行動:(forR/forR)放浪者70%、(fors/fors)着席者30%、(fosR/fors)は放浪者の行動を示す。for遺伝子領域のdg2がcGMP-依存プロテインキナーゼ酵素をコードしている。この酵素は特定の臭覚システムと脳の細胞で造られ、餌の化学的な探索に関係している。採餌行動を作り出すのではなく、採餌行動の変異を作り出す遺伝子といえる。
P33:パソプレッシンの受容体(V1aR)が腹側淡蒼球に多く分布していること(ドーパミン報酬経路の活性化)が、ペアの寄り添う時間を増やし、雄が子供の世話をする行動を促すして、一夫一婦制を引き起こしている。V1aR遺伝子は通常より高い突然変異率なので乱婚から一夫多妻、さらに一夫一婦への変化はヒトを含めた哺乳類全般で比較的頻繁に生じる可能性がある。
P36:ゼブラフィンチのZENKI遺伝子
P36:一夫多妻の(ハタネズミ等の)雄は空間学習能力の違いを引き起こす遺伝的変異に自然選択が働いたか?。
P43:エゾヤチネズミ:ナワバリを確保できない雌は交尾をしても受精しないか、流産をする。
P47:ヘッジホッグ(hh)の脳での活性が高まると、眼の形成が抑制される。洞窟に棲む魚は目に頼れずに顎や歯が発達するが、自然選択によって顎や歯が発達した結果、ヘッジホッグ(hh)の活性が高まって、同時に眼の消失を促進させたかも知れない。
P49:移動荷重
P50:シジュウカラには大胆で攻撃的に動き回る個体と臆病で行動のユックリとした個体があるが、この2タイプはホルモン作用が異なり、行動パターンは遺伝する。
P53:河田雅圭『はじめての進化論』、『進化論の見方』 - http://meme.biology.tohoku.ac.jp/INTROEVOL/index.html
P55:熱帯アジアに棲息するオオアリの働きありには、外的に襲われると腹部を膨張させ自爆するものがいる。破裂した腹部から大鰓腺由来の粘る分泌物が敵の戦意を喪失させる。
P57:非繁殖カースト不妊個体なので、自爆特攻で敵と討ち死にしようがしまいが、自然淘汰上は最初から死んでいるのも同然。
P59:プライス則
P66:血縁度は共通の祖先から受け継いだ「稀な遺伝子」を共有する確率である。
P78:カリブ海ハムレットの「卵取引」における「しっぺ返し」:雌役はコスト(卵)が大きいので利他行動である。(E.A.Fischer)は、最初に雄役を担った個体が次の放出で産卵の「返礼」をしなかった場合、相手は以後の卵取引を止め、去ることを発見した。
P80:最初に血縁淘汰で進化した利他行動が2次的に互恵的利他行動へと発展したのが、多くの動物に見られる非血縁者間の利他行動の進化史なのかも知れない。
P83:シロビタイハチクイのヘルパーは雄、片親が死亡などで変わると独立するのは血縁淘汰理論の予測と一致する。−異母兄弟姉妹や異父兄弟姉妹(血縁度0.25)、同父母兄弟姉妹(血縁度0.5)ー
P87:野生マウスは尿に含まれるMHCがコードする糖タンパク質により、血縁関係をかなりの精度で識別できるらしい。MHCの遺伝子型が近い若い個体に対して積極的な養育行動をとる。
P88:血縁識別の存在は血縁淘汰成立の必須条件では(おそらく)ない。兵隊を持つアブラムシには血縁識別行動は存在しない。
継子は実子に比べ、特に幼児では親による殺人の被害に最大40倍遭いやすい。
P89:”誤って階段から転落死した人の不運に、同情する人はいても、自然なこととして「善」と見なす人は少ない。進化は物体落下と同じ物理現象である。「自然なことは正しいこと」と考える傾向を、進化生物学者は「自然主義の誤謬」と呼ぶ。”
P98:アリの分断性比:ボームスマとグラフェンは社会性昆虫の性比を単婚女王のコロニーでは雌、複数婚女王のコロニーでは雄ばかりが生産されると予測した。サンドストロムはヤマアリでこの予測と合致するデータを1994年ネイチャー誌に示した。
P104:利他行動が進化した後の社会では、血縁度の低下はむしろ利他性の安定化に貢献する。低血縁度社会では裏切り者が台頭し易い、これが逆にワーカーに裏切り者の出現を監視し利己的行為を妨害する行動が進化する原動力となり、結果として利他性は安定化する(Frank,1999)。監視行動の進化は血縁淘汰による。なぜなら裏切り者の存在下では、監視を進化させることでワーカーはより高い包括適応度が得られるから。
P105:働き蜂同士の利己的な緊張関係、ワーカーポリシング理論(フランシス・ラトニエクス、1988):ミツバチのワーカーは血縁度0.25の兄弟姉妹を残すため、血縁度0.5の実子(半倍数性の未受精卵も正常に発生し雄に育つ)を産むのを放棄している。他のワーカー(異父姉妹)の産んだ雄の血縁度は0.125、「自分が産卵(0.5)したい」、しかし「他ワーカーの産卵(0.125)は阻止したい」という適応上のジレンマがワーカー同士が産卵しないよう互いに監視する行動が進化すると、「妥協の産物」として女王の産む雄(0.25)の独占となる。
セイヨウミツバチ巣の雄卵中7%はワーカーが産むが(Visscher,1996)、ワーカーは産卵後直ぐにその全てを取り除くので、決して育たない。ワーカーは他の利己的産卵を監視しながらも、自身は監視をかいくぐって息子を残そうと努力している。
P106:女王は卵にデュフール腺から出るフェロモンを塗り、ワーカーから卵が排除されない。アナーキーワーカーはこのフェロモンの擬態を自身の卵に施す。
P1128:繁殖の隔たりモデルーリーブとラトニエクスのモデル:このアプローチは厳密な科学としては成功していない(ように思われる)。
P113:キイロタマホコリカビの緑鬚遺伝子ー利他性の発現に必須の遺伝子:貧栄養下で細胞が集合するとき、csAがコードするgp70が細胞間に粘着性を発揮させる。csAをノックアウトした株と野生株は半々に混合して子実体を形成させると、ノックアウト株は子実体から排除される傾向にあり、子実体は72%が野生株で占められる。
P115:br>cが満たされるとき、利他者裏切り者の侵入に対して進化的に安定であると予測される。助け合いがお互いの生存や繁殖に十分貢献するような環境で、かつ助け合う個体同士が近い血縁関係にあるときには、裏切り者が生じても、集団全体に拡大しないと予測される。逆にこの条件が成立しないときには、裏切り者だけが残るか、両者共存もありえると予測される。
・粘液細菌ミクソコックスを用いたレンスキの実験
P131:潜在的繁殖速度と実効性比:遅い性の個体(通常はオス)は、速い方の限定資源となるので、実行性比が速い性に偏り、個体が余る。
P132:潜在的繁殖速度と子に対する投資:サンバガエル、イチゴヤドクガエル
P135:スニーカー:縄張り雄の求愛活動の間隙を衝いて放精する雄などを指す。
P140:グッピーの体色においてはランナウェイ過程が実際に働いている可能性は高い。
P142:雌がつがい外交尾の相手を選ぶ尺度は”さえずり”
P143:キイロショウジョウバエの雄は交尾の際に有毒化学物質を精子と共に雌に注入する。この物質は雌の性的受容性を下げ、再交尾の機会を減らし、他雄由来の精子を殺す。この解毒作用は雌雄間での軍拡競争を招く。(ライス、1999)は強力な精子間競争を働かせて毒を強化させた雄を作り、この毒に対抗進化する機会を与えない雌と交尾させたが、40世代目の雄は雌を即死しさせた。
P145:アオアズマヤドリの若い雌はあずまやの飾りつけの派手さを基準に雄を選択するが、経験をつんだ雌は求愛の踊りの活発な雄を選ぶ。
P172:社会的毛づくろいには、実際の外部寄生虫を除去する効果はそれほど大きくない。大部分の時間は儀式化している。
P178:真社会性への進化階梯という基準を採るならば、ヒトはアリやミツバチに劣るが、多様で高度コミュニケーションを発達させている点で、他を遥かに凌駕しているのは明らか。
「遺伝子ー文化共進化説」
P181:拡散共進化
P184:ベーツ擬態、ミュラー擬態:擬態するタイプが見られるのは「雌」だけー雌は雄の好みなど気に掛けるないが、雄は雌の好みに合わせるかどうかで繁殖成功に大きな差がでる。
P185:地衣(菌類と藻類の共生体)では、繁殖のたびにコンビを解消して、共生相手を組み直す。
P186:マメ科植物と根粒菌(窒素固定細菌)もまた、「出会い系」双利共生の例で、マメが根粒菌の出すnoD遺伝子産物の刺激を受けて根毛を構造変化させ、根粒菌を取り込み、根粒を造る過程で根粒菌の種類を特定する。
P186:駆除対象のウサギに対して「弱毒化」に向かって進化した「ミクソーマウィルス」:毒性と回復率の間に負の相関があり、中間の毒性が最適になった。
P188:昆虫媒介や飲料水媒介の病原体など長距離感染が可能な病原体は、接触感染する病原体よりも「強毒化」する傾向がある。
P190:ウサギ出血ウイルス(RHDV)は抗原性の獲得によるものではない:RHDVの抗体およびカプシド遺伝子は強毒系統の出現前の1955年に、イギリスの健康なウサギには存在していた。系統関係および配列比較データの最節約法による解析によると、1984年に突然出現した強毒RHDVは複数の弱毒RHDVの系統間の組替えによって、進化的には安定な弱毒状態から非常な強毒へのシフトを局所的に起こした。
199:バクテリアは特殊なファージにしか感染されない強い抵抗性を持つ方向に、ファージはより広い範囲のバクテリアに感染できる方向に共進化する。:ファージが感染に用いるバクテリア受容体の構造変化や欠失が抵抗性の強化、受容体への結合性が弱くなることが宿主域の拡大に対応する(と予想されている)
200:カッコウは托卵を拒絶した巣を攻撃するので、宿主が托卵排除を諦める状態を進化的安定にする。(Soler,1995)
202:最初の抱卵時にカッコウに托卵された「ヒナ排除者」は、巣中唯一のカッコウのヒナを自分のヒナと学習して、次回にカッコウに托卵されなかった場合に、自身のヒナを排除してしまう。ヒナを識別して排除する行動は進化できない。
206:ボールドウイン(J.M.Baldwin,1861-1934)、ボールドウイン効果の例:酪農はラクトース分解酵素の遺伝子よりも先に人間集団に広がった。
212:菌根とは単に植物の根に感染するよう特殊化した毒性の弱い病原菌と解釈した方が妥当な例もある。:あるイネ科植物の生育土壌にリン酸塩を加えたり、殺菌剤を撒いたりする、VA菌根菌の感染と植物の生育には相関がなく、VA菌根菌の感染効果として唯一確認できたのは、他の病原性菌類の感染を防ぐことだけだった。(West,1993;Newsham,1994)
214:雄性不稔の細胞質因子(Tms)の大量使用で抵抗性崩壊した事例:1970年のトウモロコシ葉枯病、インドのパールミレット(アワ、ヒエ)
ベーツ擬態とミュラー擬態
224:モンシロチョウとオオモンシロチョウは重複産卵を忌避するが、卵に着いたマーキング物質にキャベツが反応してチョウを追い払う物質を作る。
227:トウケイソウの擬卵