世界の食料生産とバイオマスエネルギー―2050年の展望

世界の食料生産とバイオマスエネルギー―2050年の展望

世界の食料生産とバイオマスエネルギー
食糧需給予測に関してレスター・ブラウンは常時悲観、FAO、IFPRI(国際食料製作研究所)の基調は楽観、世界銀行は更に楽観である。
P6:2005年世界は1haの農地で4.2人を扶養している。西欧1.9人、東洋7.1人、東アジア9.2、南アジア7.2人、オセアニア0.5人、北アメリカ1.5人、日本27.0人
P7:天山山脈等の遠い水源から地下水脈を使い砂漠の中で灌漑する農業は例外中の例外である。
農地率(%)=農地面積/(農地面積+森林面積)×100
チグリス・ユーフラテス、インダス、黄河など古代文明発祥地の農地率は高い。
P16:旧ソ連・東欧州、南欧州では栽培面積が減少傾向にある。
IIASA(国際応用システム研究所)
穀物栽培適地面積27億1800万ha、
P20:南米、サハラ以南アフリカには農地になる森林が膨大に残っている。
P21:森林面積が減少する要因は農地化で、都市化・都市の拡大は微々たるもの。
P24:「将来、農産物は工場でつくられるようになる」はエネルギーの無駄で有り得ない。
P25:世界の穀物生産量は常に人口増加を上回っている。一人当たり穀物生産量は年間1961年で285kg、1976年に350kgを越えて以来、多少の変動はあるが、350kg前後で推移している。
米350kgを脱穀すると玄米245?に相当。玄米245?を365日で割ると一日当りの供給量は671g、米100gは356kcalの熱量があるから、玄米671gは2390kcal(671g×356kcal)を有する。現在、日本の食糧供給熱量は一日2750kca/人lだが、穀物からは944.7kcalを摂取しているに過ぎない(食物需給表2006)。かように過剰に穀物が生産されているのは、多くが飼料用穀物に用いられているからである。
P28:フランスの小麦単収量は1950年から50年間で5.6倍に増えた、「緑の革命」は先進国で著しい成果を挙げている。化学肥料投入規模の少ないサハラ以南の単収量は1t/ha
P32:100g当りの熱量とタンパク質は米356kcal-6.1g、小麦368kcal-11.0g、トウモコシ378kcal-8.2gに対してジャガイモ76kcal-1.6gとイモ類から穀物と同量の熱量を取るには3倍、タンパク質なら小麦の7倍が必要。
大豆そのものには33.6%、搾油後の大豆ミールには42%のタンパク質が含まれる。
P37:イモ類の栽培面積は5330万ha(2005)に過ぎないが、単収量は13.4t/haと高い。
P38:パプア・ニューギニア穀物需給率は3%:小麦を輸入してイモ離れが進んでしまった。
P71:21世紀は水産物の絶対的な不足が問題となる時代ではない。
P72:人類は昔から薪や炭などのバイオマスを燃料として使ってきた。現在話題のバイオマスエネルギーと薪や炭の違いは、運搬や取り扱いに関わる部分である。この利便性を向上させたものが現代のバイオマスエネルギー。
P73:穀物22億4000万t、イモ類7億1000万t、油用作物4億t(FAO、2005)、野菜や果物は含水率と発熱量からバイオマスエネルギー原料としては問題外。
家畜の排泄物からエネルギー問題を解決するほどの熱量を回収するのは不可能。
生産された農産物の1割がエネルギーとして再利用されるとすると食品系廃棄物の量は約3億tとなる。穀物1tの熱量360万kcal、石油1tは1000万kcalとして、食品系廃棄物3億tは石油換算では1億tになる。世界で利用されるエネルギーは石油換算102.3億t(2002年 IEA 2004)であるから、食品系廃棄物から得られるのはその「1%」以下になり、エネルギー問題の解決に貢献する割合は極めて小さい。
P76:エタノールへの転換効率は技術開発で今後向上する可能性があるが、搾油は物理工程なのでディーゼル油の転換効率の向上は期待できない。
77:サトウキビとオイルパームはエネルギー作物として優れている。籾・稲わら等の農業残滓は「堆肥」として利用するべきである。僅かなセルロースを得るために農業残滓からバイオマスエネルギーを製造すべきではない。
P80:タンパク質を多く含む種子を収穫する穀物と違い、セルロースと糖を含む茎を収穫するサトウキビは窒素肥料の使用が単収量の増加につながり難い。
12億9000万tのサトウキビ生産には農地が1960万haしか使われていない。22億4000万tの穀物生産には6億8600万haが使われている。
P85:サトウキビ畑1haから5.82KLのエタノールが生産できるとすると、栽培適地8億8158万haから51億3000万KLのエタノールが出来る。エタノールの比重を0.789、単位重量当りの発熱量を石油の70%とすると、得られるエネルギーは石油換算で28億3000万tになる。現在の石油消費量は37億t。
P94:オイルパーム畑1haから4.12klのパーム油ができるとすると、オイルパーム栽培適地5億1400万haから21億klのパーム油がとれる。この熱量は石油19億t相当。ただし、熱帯雨林を伐採しないと生産量は増やせない。
P98:エチオピアでは生産された木材の97%が燃料になっている。(2003年)
ハーバー・ボッシュ法、窒素肥料には尿素や硫安らがある。
P103:日本は飼料用の穀物を中心に穀物を輸入している。このため穀物に必要な窒素肥料が少なくて済んでいる。穀物輸入で国内に流入する窒素が環境に悪影響を与えているから、食料自給が国内環境の改善になるとする説(鈴木、2005)はマクロに見れば間違っている。国内での生産に必要な窒素の量は輸入した穀物に含まれる窒素の量を大きく上回る。
P110:ヴァンダナ・シバは極一部における経験を広い地域に適用しすぎている。実際にはパンジャブ州全体の小麦単収量と栽培面積は増加している。
レスター・ブラウンの言う穀物生産量の限界は技術的に単収量が伸びなかったというよりも、穀物需要が鈍化したために生産が伸びなかっただけなのである。
P112:中国の米単収量は限界に達したかもしれないが、他のベトナムインドネシアバングラディッシュ、インドには米単収量には伸びる余地がある。レスター・ブラウン指摘の穀物単収量の伸びが止まる危険性はどこにも見出せない。
ヴァンダナ・シバは窒素肥料を投入し続けた土壌が劣化すると指摘するが、西欧では窒素肥料が大量に投入させてきたが単収量は減っていない。西欧は降雨が少なく窒素が土壌に蓄積しやすい。窒素肥料が土壌に悪影響をもたらすならば、西欧にその影響が最も早く現れなければならない筈である。窒素肥料が農業の持続可能性を失わせるとする説は、合理的な根拠を有していない。
バーツラフ・スミル『世界を養う』
P116:窒素肥料が無かったら森林を伐採し農地の拡張をした可能性が高い。
P117:厠肥や堆肥などの有機肥料は窒素成分の溶出がゆっくりしているため効率よく吸収される面もあるが、単収量を上げるために投入量を増やせば、窒素肥料と同様に吸収されなかった窒素が環境中に出る。有機肥料も使い方次第で環境汚染の原因になる。
農地に播かれた窒素肥料は尿素や硫酸アンモニウムであっても、硝化菌などの働きにより硝酸態窒素(硝酸イオン)に変化する。これは土壌に吸着されにくいため、地下水に混入しやすい。硝酸態窒素濃度が10[mg/L]以上は飲料不適とされ、河川に流出して内湾・湖沼が富栄養化する原因ともなる。
また、硝化(アンモニア態が硝酸態に変わる現象)や脱窒(微生物の働きにより硝酸態窒素が分子状の窒素となり空気中に戻る現象)の際に、僅かではあるがあるが亜酸化窒素と呼ばれるガスが発生するが、亜酸化窒素は強い温室化効果を有する。
P118:西欧では窒素肥料の投入量を減らしつつあるが、単収量は増加し続けている。同様の傾向は米国にも見られる。この窒素肥料を減らしながら行う農業を「LISA」と呼ぶことがある。
米国は窒素肥料「1kgから36.2kg」の穀物を生産している肥料効率の高い国である。バイオエタノールを得る為には当然その分の窒素肥料が投入される。
P128:現在、先進国では100人分の食糧生産に必要な農民は「3人」いれば充分である。機械化の進行で今後もますます減るものと考えられている。
・採算割れで休耕地は増加傾向にある。耕作地総面積は増えていないが、窒素(化学)肥料の利用で単収量が増大している。
P131:日本の米消費量は昭和30年代には「飽和」していた。
P133:1人当りの生産額の「農業/非農業」比率(2004年):仏81%、マレーシア59%、米54%、英54%、独47%、韓46%、日本40%、比27%、インドネシア25%、印23%、越南15%、タイ13%、中国8%ー米の農民でさえ非農業分門の半分である。
P134:タイ、越南には中国のような戸籍制度があり、農民が非農業部門へ移動するのを制度的に阻害しているので、農村と都市部との所得格差が拡大している。
P135:非農業部門の経済成長率は農業部門より速いから、農業部門から非農業部門への人口移動が素早く行われないと格差が開き、農民が相対的に貧しくなる。経済成長下の社会で両部門の1人当りの生産額を等しくするには、永遠に農業人口が減り続ける必要がある。
P144:2003年の1ha当り生産額は日本17500ドル、米国1160ドル、単収量は日本5.8t/ha、米国7.4t/haなので日本の消費者は米国の15倍払っていることになる。
P154:北・南米、西欧、豪州、南アジアは穀物純輸出、アフリカ、東・西アジアは輸入、東南アジアは米は輸出だが小麦・玉蜀黍を輸入している。
P162:藁を家畜の餌にしていた時代の日本では、飼料用穀物の輸入は国内生産者と競合しないので、反対の声は上がり難かった。
P165:名目GDPの世界平均は1974年で1298ドル、2004年に6482ドルと上昇したが、所得に対しての穀物価格は相対的に下落している。
P170:世界全体の趨勢は飼料を輸入して行う畜産から食肉の直接貿易に移行しつつある。
P171:日本の食料自給率は2006年熱量基準で39%
P172:1980年代スイスの自給率は40%未満、オランダは1961年37%、2004年22%、ポルトガル1961年80%、2004年32%、
192か国中穀物自給率が100%を超える国は32カ国、100%未満は160各国で中「20カ国は0%」である。自給率50%以下の国に住む人口合計は1961年4100万人だったが、2004年には4億5300万人に増えている。
P173:2004年イスラエル6.7%、リビア9.2%、キューバ33.1%、イラク55.7%、ベズズエラ65.9%と紛争渦中にある国の自給率は低い、一部の国の食物禁輸は「他が争って輸出」するので効果が見込めない。北朝鮮は食料禁輸ではなく外貨不足で飢えた。
P174:ガット・ウルグアイ・ランドやWTOの貿易交渉で農業が問題になるのは、農産物を売りたい国が多い一方で、買う国が少ないからである。
P177:現在ほどに輸送事情が良くない時代の1885年、国力絶頂期にあった大英帝国穀物自給率は「46%」だった。
P177:1965年食料輸入額は輸入総額の34%、2003年には8%に
P179:日本人は生きるためというより食を楽しむ為に輸入している。
P180:米国の食料輸出額の総額に占める割合は2003年6%、1965年17%
P188:農業先進国では長期間に渡るリン肥料の土壌投入で、年々土壌のリン濃度が過剰に上昇していた。1980年代に経済崩壊が始まった東欧諸国では、リン肥料の土壌投入が激減したが、単収量は意外と減っていない。旧ソ連の1994年リン肥料使用は1988年比で9.7%にまで落ちたが、単収量には余り影響が無かった。
小麦の地上部が1t収穫されると、5酸化二リンが9.5?が持ち出しになる。
P190:栽培面積当りの5酸化二リンの投入量は「50kg/ha」で推移か?
P194:2050年の水問題はイスラム諸国の人口増加に関連する問題。
P198:灌漑率と穀物単収の間には窒素肥料投入量と穀物単収のような強い相関は無い。
P200:西欧が輸出し、南欧が輸入してるのも、「バーチャルウォーター」から容易に説明できる。日本の「仮想水」使用量は多い。
P203:米国のエタノール増産計画は2003年時に7100万ha存在した「旧耕地利用」を意図している。350億ガロンは休耕地余剰の6割で計画されている。
P208:食料増産余力から考えて2050年を飢餓の時代と見るのは間違いである。
P213:旧ソ連地域の畜産はソ連邦の保護の上で成立していたから、国際競争力を得るのは難しく、以前のような飼料輸入国には戻ることはない。
P216:1995年レスター・ブラウンが披露した食料危機はもはや杞憂となっている:中国の大豆需要には伯剌西爾が応じている。
P221:中国の食肉生産量(水増し)と飼料統計の間には齟齬が生じている。
P222:2010年過ぎには中国の食肉消費量が飽和に達する。
P225:北朝鮮の1人あたり農地面積は「日本の5倍」ある。1996年の穀物消費量は一人当たり120kg、1997年の食肉消費量は6.1?とサハラ以南以下だった。
P228:北朝鮮ではソ連邦崩壊でエネルギー供給が絶たれときに、窒素肥料の製造ラインが止まり単収が減ったのだが、そもそも輸入外貨があれば肥料(または食料)を幾らでも買えた。農地が確保されてもエネルギー供給が絶たれれば食糧危機に遭う。
P233:2002年窒素肥料の平均輸出価格167ドル/t、穀物の輸出価格192ドル/t。窒素と穀物を等価として1tの窒素肥料から約20tの穀物ができる。穀物を輸入するより窒素を輸入する方が「20倍」も穀物を多く手に入れることができる。サハラ以南アフリカには肥料購入の外貨が無い訳ではないから、輸入外貨で窒素肥料を購入し末端の農民に行き渡るようにしない「不誠実な政府・社会システム」に問題があるのである。
P239:農産品の需要は人口が増える程度にしか増えない。農産品の輸出を中心とした農村振興は、世界に思わぬ余波をもたらすことがある。
P242:セラードの農業適地面積は1億2700万ha:サトウキビ、オイルパーム等バイオマス作物の制約となるのは自然保護運動
P246:東南アジア諸国の経済成長が順調なら、食肉需要が増えて「米」の需要は確実に減少する。
P248:東南アジアの休耕田は膨大なエネルギー作物を生産できる。
P250:今後の経済成長に伴う賃金上昇により、東南アジア農産物の国際競争力は低下する。
P251:中位推計
P253:人口増加は、多産が当然とされる社会で、衛生状態が徐々に改善され、幼児死亡率が低下する段階で起こる。生まれた子が確実に成人すると確信できる社会が到来すると、出生数は減少してゆく。
中国では1979年に「一人っ子政策」を施行したが、1970年代に入り出生率は既に低下傾向にあった。
P256:20年もすれば中国や東南アジア(早ければインドも)においても少児高齢化、農村過疎が到来する。中位推計を採用しても2050年には中国、インドの出生率は2を割る。
P270:西アジアとサハラ以南の需要が米価格の暴落を辛うじて防いでいる。
P272:サトウキビの原材料費を9.4ドル/tとすると、サトウキビからできるエネルギー価格は石油に換算すると「214ドル/t=34ドル/バレル」に相当。
P276:米国の補助金助成によるエタノール生産は、米国内でも石油以外のエネルギーを作れるという「政治的メッセージ」である。また、補助金や税制上の優遇措置が続けられるのは米国政府の「財政次第」である。
P294:そもそも、21世紀が食糧危機の時代と確信されているのなら、バイオエネルギーの話など出て来る訳がない。