生と死の自然史―進化を統べる酸素

生と死の自然史―進化を統べる酸素

生と死の自然史
http://d.hatena.ne.jp/shorebird/20061104
http://tkido.blog43.fc2.com/blog-entry-618.html
http://www.wound-treatment.jp/next/dokusho181.htm
P6:1621年、コーネリウス・ドゥレベル:テムズ川水面下10マイルを漕手12人に3時間に渡り”空気”を供給した液体。
P35:40億年前の地球大気は、大半は窒素、いくらかの二酸化炭素と水蒸気、酸素など痕跡量のその他のガスを含み、メタンやアンモニア、水素は無い。宇宙に7番目に多く存在している「ネオン」が窒素の6万分の1と非常に少ない。
P36:植物が作る酸素のほぼ全量が動物や菌類、バクテリアの呼吸によって使い果たされている。・・・酸素が消費されるのと同じく、食べた食物が燃やされると光合成の続行に必要な二酸化炭素が再生される。・・・我々が植物を必要とするのと等しく、植物もまた、我々を必要としている。
ロバート・バーナー:地殻中に埋められている炭素の量は生物圏全体量より26000倍も多い。生物圏には地球に存在する有機炭素の0.004%しかない。生物圏の生き物すべてが酸素と反応しても99.996%の酸素は大気に残る。したがって、世界中の森林を最大限向こう見ずに破壊したところで、酸素の供給を減らすことなどほとんど出来ない。現実に地殻に埋蔵されている有機炭素の大半は砂岩に含まれる形をとる。普通の砂岩は重量で数パーセントの有機炭素を含む。だから、地殻に貯留された全ての石炭、石油、天然ガスを燃やしても大気中酸素の数パーセントしか使えない。
P43:光合成 CO2+H2O→CH2O+O2 のCH2Oが炭水化物の形の有機炭素。呼吸はこの逆の反応として表される。だから、1分子のCH2Oが呼吸によって燃やされずに埋蔵されると、1分子の酸素が大気中に残されることになる。
P47:1967年、サル・スピーゲルマン:大昔の複雑さを失った。発酵生物は酸素を利用する祖先の能力を失っている。
Thiosphaera pantotropha が失ったのは発酵の能力ただ一つ。
P51:炭素14は宇宙線の衝突により高層大気中で1兆分の一の割合で絶えず作られる。
P52:炭素12と炭素13の比率はどこでも一定の99.89対1.11。だから、岩石中に埋蔵された炭素12と炭素13の比の変動は生物によってのみ生じる。これは海水中の二酸化炭素を利用する光合成細胞が、炭素12を優先的に使うことから(炭素12原子の作る化学結合は重い炭素13に比べて弱いので、たやすく酵素によって分解される)有機物には炭素13よりも炭素12が濃縮される。→質量収支
生物活性を示す2つ→「石炭に埋もれた有機物中に濃縮された炭素12、石灰岩のような炭酸塩岩に濃縮された炭素13」
P56:現代の真核生物は、大気中の現在の酸素レベルの少なくとも0.2〜1%の酸素がなければステロールを合成できない。
P58:酸素が存在すると鉄は溶けない。縞状鉄鋼層の沈積以前の海洋は「無酸素状態」
P59:7500年前、ボスフォラスを閉じていた陸橋が崩壊、海水が黒海盆地に一日当たり、推定流量4200万立方メートルで注がれた。
P63:初期の地球には海水の蒸発によって沈殿する硫酸塩岩がない。・・・硫酸濃度は酸素濃度に依存している。硫酸還元菌は酸素によって殺される偏性嫌気性菌だが、酸素なしでは生きられない。
P66:ガボンのオクロ鉱山の天然原子炉、ここには核爆発の痕跡は全く無い。・・・”埋められた核廃棄物の長期に渡る安全性の潜在的な証拠として保存されていたのだ”
P70:リン・マーギュリスの「酸素ホロコースト」はその痕跡が認められない。
P75:ミトコンドリアATP輸送機構は後の進化
酸素の毒性を和らげるために細胞が群がって集団を作る傾向が多細胞生物の進化の原動力。・・・ミトコンドリア持っていない真核生物は一つも多細胞性のものはいない。
P86:分子時計は多細胞生物ー後生動物ーの進化が7億年前から10億年前になる可能性を示している。
三葉虫の謎ー「進化の目撃者」の驚くべき生態』リチャード・フォーティ
P90:カンブリア紀の爆発は今日の甲殻類に似た、体節を持つ、左右相称動物の多様化。
P97:炭素原子は鉄原子よりも4倍も多く酸素を消費する。
P102:ヴァランガー氷河期後、海の表層と大気がかなり酸化されたとき、海の深部ではまだ硫化水素が飽和し・・・最初の大型生物の糞は、海洋を浄化し・・・、バクテリアの死骸は深層水中へは非常にゆっくりとしか沈降しない。このため、利用可能な炭素が再利用されるための時間はたっぷりあった。大半の炭素が再利用されたので、炭素の埋蔵率は低かった。酸素は炭素が埋められる時にのみ蓄積されるので、大気中の酸素の蓄積は長期的に見てたいへん僅かだった。・・・水の中を浸透して下へ拡散する酸素は、全て、上昇してくる硫化水素に中和された。・・・当時思いのままに振舞うことを許されたバクテリアは果てしのない平衡状態を決して破らなかったようだ。・・・動物の糞は相対的に重いので、酸素を嫌う硫酸還元菌の群れをかき乱しながら、海底まで速やかに沈んだに違いない。海底の堆積物に栄養をばら撒きながら、糞は次々と堆積物の下に埋まり、硫酸還元菌が利用すべき栄養分を枯渇させた。
P106:通常無酸素条件下ではエネルギー代謝効率は10%未満。次にこの生物が食べられたりすると、一次生産者によって最初に合成されたエネルギーの1%未満しかこの捕食者には利用されない。1%という閾値以下では、生命を維持できない。・・・酸素がない場合には食物連鎖は非常に短いものとならざるを得ない。・・・酸素を動力源とする呼吸はエネルギーの獲得に当たって40%ほど効率的で、これは、1%の閾値食物連鎖の「第六段階目」になってやっと超えることを意味する。かくして、肉食性の食物連鎖がエネルギー的に見合うものとなり、捕食者が生まれる。
P107:植物のリグニンに対して、動物界はコラーゲン
P108:ジェームズ・ラヴロック:バクテリアは粘液を纏って身を守り、(紫外線)照射される前に粘液を剥ぎ取られた場合にのみ、死んだ。
P111:シアノバクテリアは全てのスノーボールアースを生き抜いた。熱水噴出孔の細菌から進化したいしては性質が違いすぎる。
P115:1930年代の”飛行力学の計算に基づけばマルハナバチは飛ぶことができない”は疑わしいが、このスイスの航空力学者がマルハナバチが「滑空」することができないことを証明したのは正しい。・・・我々は知らないことがあまりにも多いので、飛行力学の理論のみに基づいて、大昔の大気組成について確実な結論を下すことはほとんど絶望的。
P117:25%以上の酸素濃度の大気中なら湿った有機物が問題なく燃える。・・・が、酸素レベルの上昇は火事によって回復されるとするシナリオは、実際は全く誤っている。このバランスは”森林が気体となって消えうせた”場合のみに保たれる。・・・火事の後の森林残骸には大量の「炭」が残るが、これを生物が片付けられない。・・・炭は完全な形で埋蔵されるので、森林火災は炭素の埋蔵を増やし、大気中の酸素濃度を上昇させ、森林火災は連鎖する。火事は大気中酸素の制限要因にはならない。
P117:石炭紀二畳紀初期の石炭は沼沢のメタン細菌によって分解されなかったもので、メタンサイクルが酸素濃度を充分制御できなかった時期があったのは確か。
「光呼吸」:いくつかの条件下では植物の成長は完全に抑止される。酸素を取り二酸化炭素を放出する。正味の効果としてエネルギーを得られない。Rubiscoとして知られる酵素の利用をめぐって、光呼吸と光合成とが競合するので、成長が抑えられる。・・・光呼吸の割合は温度と酸素濃度の上昇に伴い大きくなるから、植物の成長は「暑くて酸素濃度が高い」ときには、軋みを生じて止まる。・・・植物に光呼吸を抑止させる遺伝子改変植物は通常の大気では死ぬが、酸素濃度が低く二酸化炭素濃度の高い大気中なら、繁茂する。
P122:酸素濃度21%〜35%で植物の成長を測定すると、摂氏25度では、酸素濃度が高いと生産性が(18%まで)低下する。・・・二酸化炭素を二倍(300PPMから600PPMへ)にすると生産性は特に高まった。二酸化炭素レベルはデボン紀の3000PPMから二畳紀の300PPMに低下した。・・・石炭紀二畳紀初期の高レベル酸素は熱帯域の植生を貧弱にした以上のことはできなかった。・・・石炭資源の90%は地球史の2%以下の時期のもので、このときは地質年代の平均よりも600倍も速い。
P126:石炭紀後期と二畳紀初期の間に酸素レベルは35%まで上昇し、二畳紀後期には15%に下降して大量絶滅を引き起こした。
「四重極質量分析計」
P130:琥珀の中の空気は外部の空気と交換可能
P137:リグニンとシリカは難燃で、今日の火事はその大半が人によって点火されたものである。化石記録では植物は耐火性を持つし、「現世のトクサはほとんど燃やすことができない」−ジェニファー・ロビンソン−
P140:酸素濃度の高い石炭紀白亜紀に作られた石炭は、始新生のような酸素濃度の低い年代のものに比べて2倍以上も炭を含む。おそらく、400度から600度に達する温度で焼かれた。
P143:きっかけはともかく白亜紀破局的な大火で閉じられたのは確か。
P144:グルコース分解に頼らないハエは乳酸で事故中毒に陥ることはない。・・・昆虫が気管を換気する方法は腹部をポンプのように動かして送風する。または、(翅で)自動的に対流を起こして換気する。ハチ・イエバエは腹部ポンプ、トンボ・バッタは対流に頼る。
P149:溶存酸素濃度と相関−酸素は冷たい水ほど良く溶け、淡水は塩水より25%多く溶ける。このため、酸素の飽和量が最大になるのはバイカル湖のようなツンドラ地帯を縁取る淡水湖。
P153:(3)C4植物は、二酸化炭素を捕らえてルビスコを含む細胞の区画中に大量に放出する。このような条件下では二酸化炭素が酸素との競争に打ち勝ってルビスコと結合しやすくなる。
(4)・・・炭素と黄鉄鉱の埋蔵が速い速度で同時に起こると、酸素の形成速度が最大になる。
(6)イリジウムはインドの「デカン・トラップ」で起きた火山の大爆発に由来という別説もある。
(7)・・・大気密度が高くなりレイノルズ数が増して浮きやすくなると、飛翔生物は発展しただろう。
P156:マリア・サロメー・スクウォドフスカはロシア支配下ポーランドの「移動大学」で学んだ。・・・キュリー点=物質が磁性を失う温度。・・・彼女はWW1中小型トラックに搭載したX線装置で、傷病者体内の榴散弾破片・弾丸を見つける方法を看護婦に伝授した。
P161:1920年ラジウムは万能薬としてもてはやされていた。−「キャサリン・ヴォルフェ・ドナヒュ」ー
P163:・・・放射線は酸素中毒と非常に良く似たメカニズムで生物に影響を及ぼす。・・・被爆時には水から、酸素中毒時には酸素から中間産物が作られる。・・・呼吸は非常に緩慢な酸素中毒と見なせる・・・
P165:”フリー・ラジカルは酸素の活性化学種であって、呼吸によってわずかずつ絶えず作られる”
P167:・・・水から酸素を得るには、2個の酸素原子から合計4個の電子を取り除かなければならない。・・・呼吸のようにこの過程を逆行させる、つまり酸素から水を作るためには、四つの電子を付け足すことが必要。・・・生じる3つの中間産物(ヒドロキシル・ラジカル、過酸化水素、スーパーオキシド・ラジカル)はこれらに電子を一度に一つずつ付け加えたり、あるいは取り除いたりしなければならない。
1894年「フェントン反応」
P173:・・・水と酸素の三種の反応中間産物は、鉄が存在すると生体分子を損傷する、一見無害だが実は有害な触媒系として作用する。スーパーオキシド・ラジカルは貯蔵鉄を放出させ、溶存態に変える。過酸化水素は溶存態の鉄と反応して、ヒドロキシル・ラジカルを作る。ヒドロキシル・ラジカルは全てのたんぱく質、脂質、DNAを無差別に攻撃し、損傷と破壊を拡大するフリー・ラジカル連鎖反応を開始する。
「スピン制限」を解除する→「一重項酸素」
P178:安息時で、細胞が消費した酸素総量の1%、もしくは2%がスーパーオキシド・ラジカルとして逃げ出す。激しい運動時には、枷から逃れる酸素の量は全体で10%にものぼる。
P181:ジェームズ・ラヴロック:−一年に呼吸によって生じる損傷は1シーベルトの線量で体全体を照射されたのに等しい。胸部X線撮影が50μシーベルトなので、「一年間呼吸を続ける」ことは、胸部X線撮影よりも1万倍、つまり、一生涯にわたってあらゆる線源から通常受ける全ての放射線よりも「50倍も危険」なのだ。−
P184:D.radiodurans はキメラ:寄せ集めの解答を継ぎ合わせて、予想される性質の全てを与える自然の腕前のすばらしい実例。・・・例外的に効率のよいごみ処理システムを持つ。このシステムは傷ついた塩基を「捨てて」、複製や修復の間にそれが新しいDNA中に取り込まれないようにしている。・・・この能力は他バクテリアから遺伝子転移よって獲得した有用な遺伝子ともども、自分自身の遺伝子を複数コピーして蓄えておく能力に由来している。・・・超好熱菌の既知遺伝子175個中143個と同じものを持つから、もとは熱抵抗性をもたらす為に進化したシステムを改造することで生じた。
P186:・・・火星の土壌から大量の酸素を噴出させるには培養液のふたを取るだけで充分だった。−土壌中の極微量の水蒸気が紫外線により分解されて過酸化物が作られた。・・・この赤い惑星を青い惑星に変えるためには、少量の暖かい水以上のものを必要としない。
P189:(6)・・・薬剤耐性に関する遺伝子は大部分プラスミド上に乗っており、このためバクテリア集団中に容易に耐性が広がる。・・・バクテリアは類縁性の低いバクテリアから新たな遺伝子を環境中から直接取り込む。→水平伝達
P192:クロロフィルのような触媒は、平凡な日光にX線の破壊力を授ける。廃棄物は酸素。
今日、熱水の噴出に由来する有機炭素の総生産量あ毎年2億トン、一方、植物、藻類、シアノバクテリア光合成を通じて糖類に変化される炭素の量は、一年当たり1兆トンで、両者比5000倍。
ダーウィン流の淘汰には将来を見通す力がない”
P194:酸素放出型の光合成は、少なくとも世界的な規模では、鉄や硫化水素が枯渇する以前に進化したと結論せざるを得ない。
P196:酸素放出型光合成では、水素は水からしか得られない。
最初、酸素の源が二酸化炭素に由来すると考えられたが、完全な誤りだった。:1931年、コーネリス・ヴァン・ニール「植物においては、酸素は二酸化炭素に由来するのでは全くなく、水から来るのである。酸素放出型光合成も無酸素型光合成も、どちらも中枢的な過程は変わらない」
1937年、ロバート・ヒル二酸化炭素の代替物として(酸素を含んでいない)フェリシアン化鉄を与えても、植物が酸素を作ることを発見した。この場合植物は成長できないが、酸素は作り続ける。
P197:酸素放出型の光合成では、水素原子(これを構成する陽子と電子)は水から抽出され、”無用”の酸素が空気中に捨てられる。こういうやり方で水を分解するのは容易ではないので、水の唯一の利点は非常に大量にあるということしかない。
1996年、宮下英明が報告した水を分解して酸素を生成する Acaryochloris marina の主な光合成色素はクロロフィルdだった。したがって、バクテリオクロロフィルと植物のクロロフィルの中間形は実在する。
P202:カタラーゼは酸素放出複合体より前に進化した。
P210:酸素放出型光合成の進化は二分子のカタラーゼの偶然の結合というたった一本の糸にかかっていた。
P223:鏡像異性分子と働く二種類の鏡像酵素を作ることは資源の無駄である。・・・全ての生物が右手分子を好んでいる。・・・LUCA自身が右利きで、彼女の子孫は先例に倣うより他なかったのだ。
P227:人間のチトクロムC遺伝子はチンプと1%、カンガルーと13%、マグロと30%、赤カビとは65%異なる。
P243:我々はヘモグロビンを酸素の輸送体としてみるべきではなく、代わりに酸素の貯蔵と供給を制御する分子として考えるべきなのだ。
P244:LUCAの子孫の多くは、酸素を用いてエネルギーを作る能力を失ったが、最終的にミトコンドリアに進化した紅色細菌からいくつかの呼吸鎖たんぱく質を再び獲得した。・・・アーケアはLUCAから進化した。
P246:最初の光合成硫化水素か鉄塩を分解していたが、これらが枯渇するにつれて、隔離された環境内での酸化ストレスのために、他の資源(過酸化水素、最終的には水)への適用を余儀なくされた。・・・しかし、呼吸による代謝に理想的な酸素レベルは、呼吸酵素が始めて進化した当時と変わらない。人のチトクローム・オキターゼは大気中の酸素分圧の0.3%以下で最もよく機能する。・・・外部と内部の酸素レベルの持続的な緊張関係が、多くの人の病気の根底にある。・・・チトクローム・オキシターゼは抗酸化物質としてよりは、むしろ代謝酵素として進化したものと思われる。
P249:(5)人はかつて臭いの検出遺伝子を900個持っていたが、内60%は傷物でこれからタンパク質は作られない。
P255:ウィリアム・ポーター「この物質(ビタミンC)を抗酸化物質と呼ぶのは、矛盾していると言わざるを得ない」
P264:1990年代、マーク・レヴィン壊血病の兆候や症状を消すビタミンC必要量は、一日10ミリグラム←1960年代アイオワ州刑務所収監者に対する研究。60ミリをグラムを超えると尿として排出される。摂取推奨値は健康な大人では日に200ミリグラム、400ミリを超える摂取には明瞭な有用性がなく、1グラムを超えると危険かもしれない。
P269:倦怠感とは:ビタミンCは胃や腸内の食物中の無機の鉄に作用して、通常植物中で見かけられる不溶性鉄から腸管内で吸収できる可溶性鉄に鉄の電荷を変える役割を果たす(不溶性鉄の縞状鉄鉱層への沈積を導いた先カ紀代の海での大規模な反応の逆反応)。ビタミンCの供給が適切でないと、充分に鉄を吸収できずにいると、赤血球にヘモグロビンの形で鉄が蓄えられず、倦怠感が生じる。
P274:ビタミンCは、鉄および酸素と反応するときは電子供与体として働くが、抗酸化物質としては働かない。まるで反対だ。酵素の内部の鉄を活性型に再生することで、ビタミンCは酸素の添加を助け、支援する。別の言葉で言えば、ビタミンCは基質の酸化を助けるのだ。このようにビタミンCの有益な反応の多くは、抗酸化作用によるものでは全くなく、実際には”プロオキシダント”としての作用なのである。
P275:ビタミンCが人の体の中でプロオキシダントとして振舞うという証拠はほとんどない。しかし、体がその危険性を察知していることを示す徴がいくつか見られる。
P283:好中球の全代謝過程がデヒドロアスコルビン酸の存在でコース変更される。
P285:(6)・・・問題は、大半の細胞が、デヒドロアスコルビン酸しか認識できない、というところにある。大量のビタミンCが内部から細胞を保護するためには、この物質はまず血中で酸化されてデヒドロアスコルビン酸となり、その後細胞に取り込まれて、最終的にグルタチオンを用いてビタミンCに再生されなければならない。近道はない。
P291:消化管に住むバクテリアを寄せ集めると、代謝能力は肝臓に匹敵する。
P293:バクテリアの粘液はプラスチィック似の高分子重合体が混じりあったもの。このポリマーはみな負の電荷を帯びている。
P295:我々もまた、死んだ細胞の層の後ろに隠れている。この死んだ細胞層は皮膚として知られている。
ヘモクプレインが1969年にSOD(スーパーオキシド・ディスムターゼ)に改名。
P300:ダウン症候群は21番目の染色体(SOD遺伝子が乗る)を余分に持つので、SODを過剰に作る。
P300:ペルオキシレドキシン:大半の寄生生物はSODのような抗酸化酵素を利用して自らを防御するが、おかしなことに、ほとんどのものが過酸化水素を除去するカタラーゼを持っていない。が、ペルオキシレドキシンはカタラーゼを欠く全ての寄生生物にある。
P303:病が悪化するほど、それと戦うために尿酸が必要で、だから、病気の重さと血漿中の尿酸レベルには相関がある。・・・抗酸化物質と健康が直接的な関係を示すことはほとんどない。
P312:ヘム・オキシゲナーゼはチオールが酸化されることでつくられる。・・・この鋭敏な相互作用を抑制すれば、感染のような突然の攻撃に対する我々の応答を鈍くするだろう。多分これが、風邪に対するビタミンCの予防効果を立証することが何故酷く困難だったか、の理由だろう。ビタミンCのもたらす利益はヘム・オキシゲナーゼのようなストレスタンパク質の合成を抑制するという不利益によって、帳消しにされたのだ。・・・おそらく抗酸化物質と穏やかな毒のバランスが果物のもたらす利益の原因なのだろう。確かに、果物や野菜のもたらす利益は、抗酸化剤をサプリメントとしても、決して単純に再現されはしない。
P332:原理的に言って、一倍体は回避可能だし、危険でもある。しかも、細胞はずっと低いリスクで二倍体と四倍体を容易に循環できる。・・・自然界において、一倍体細胞は精細胞に限られない、多くの膜翅類に属する昆虫オスは完全に一倍体。・・・蜜蜂はオスの8%は二倍体で生まれるが、6時間以内に、働き蜂が二倍体のオスを全て食べる。
1991年、ヴィルト・アトマー「一倍体の動物は遺伝的エラーを隠すことができないので、明らかに元気なオスはみな、完璧な遺伝子を持っているに”違いない”」、「男性はX染色体とY染色体に関して一倍体だ」
P338:”ひよこはもう一つの卵を得るための卵の手段に過ぎない。同様に、人間は次の卵細胞が過誤によって蝕まれないことを確実にするための、卵細胞の手段に過ぎない。”
セメルパロス(一回生殖性)
P356:19世紀、マラカイボで20人の子を産んだマリア・コンセプシオンの子孫は16000人、・・・ハンチントン舞踏病の遺伝子保持者は性行動により多くの関心を示す傾向がある。
P367:インシュリン耐性は長寿を授けてくれる。
P371:乳糖耐性を持つ民族はみな糖尿病にかかり難い。反対に、乳糖不耐性の民族はみな、非常に糖尿病にかかり易い。・・・糖尿病は子孫を作ることを後回しにして生き延びようとする絶望的な試みなのだ。
P383:カロリー制限のメカニズムは、脂肪、あるいは炭水化物など特定のカロリー源を減らすことよりも、”総カロリー”にあるのは確実。・・・カロリー制限は代謝速度を必然的に落としたりしない。・・・制限することによって、一生の間の心拍数を増やせる。
「ヘイフリック限界」
P399:テロメラーゼは永遠の生の秘密を解く鍵を握ってはいない。・・・テロメラーゼは細胞分裂を容易にする。・・・テロメラーゼは、必要とされていないから発現しない。
P401:培養された腎尿細管細胞は酸素を少しも必要としない。
・・・活性の高いテロメラーゼに加えて活性の低い小数のミトコンドリアがあれば、細胞は無制限に増殖できる。
P410:1996年、ジョン・アレン「父系由来のミトコンドリアは”時限爆弾”」
P413:卵の中のミトコンドリアはスイッチを切って(呼吸タンパク質の生産を中止して)眠らされている。
P415:共通のメカニズムを通じて特定の病気の発症を遅らすことが可能ならば、現在の医療関係の研究が、病気の遺伝的因果関係を指摘することに重きを置く(たとえば、一塩基多型)のは誤っている。・・・他との違いではなく、共通性こそ探求すべきなのだ。
P421:ハムレットの悲劇は、全て回避可能だったという事実にある。
P433:人はみな、似たやり方で年を取る。老化を遅らせる試みは認知症を治療するよりも難しいことではないだろう。
P442:老年病は、ストレスタンパク質の慢性的活性化と炎症の持続。
P461:世界中の癌の3分の一はヘパティティスBやC、住血吸虫症のような、慢性の感染症によって起こっている。
P465:(12)NFkBの活動をブロックすると免疫抑制が伴う。
P474〜本書の要約
P490:免疫抑制は老年期の健康によい影響を及ぼすが、その対価は深刻なもの・・・・
P493:多数の研究が、子供の頃頻繁に感染すると、その後、アレルギーや自己免疫疾病の罹患率が下がることを示している。
P494:ジョヴァンナ・デ-ベネディクティス&アナトリー・ヤシン「(百歳超の)”長寿”遺伝子が、若い頃の虚弱さ(または罹患し易さ)と結びついている。」
P496:日本人百寿者の62%が Mt5178A として知られるタイプの変異型遺伝子を持っている。・・・この変異型は世界では稀で、(ある研究では)147人中、5人のアジア人と1人の欧州人にしかなかった。・・・この一塩基置換が、全ての老年病にかかる危険を半分にするのに充分で、百歳まで生きる可能性が二倍になる。・・・この塩基置換は一つのアミノ酸−ロイシンをメチオニン−で置き換える。
P500:卵子が発生を無理強いされれば、生まれた子はしばしば生体エネルギー関係の病気で苦しむ、これはクローニングの失敗率が非常に高いことを説明するのに役立つ。
P503:遺伝子の発現状態を元に戻せばよい。
P504:運動時のエネルギー要求の高まりがミトコンドリアの複製を促す。こうなると最も健康なミトコンドリアが一番早く複製し、生存に適したミトコンドリアのストックが再生される。
「多様なものを食べよ、しかし食べ過ぎるな、過度の清潔は避けよ、度の過ぎるストレスを避けよ、タバコをすうな、適度な運動の習慣を持て、そして回転のよい頭脳を維持しよう」