日本人の殺人 河合幹雄
P19:被害者は加害者の何にあたるか?:配偶者11%、子34.9%、父母6%、孫0.1%、祖父母0.3%、兄弟姉妹1.9%、その他の家族2.9%(親族小計57.2%)、同居人2.1%、知人友人18.9%、顔見知り10.7%、面識無し11.1%、(非親族小計42.8%)−計1448名(不明79名を加えると分母は1527名)
P23:殺人事件は、愛憎が深いほど発生する。
P24:赤ん坊の放置ー明らかに誰かがすぐに気が付くように放置した場合は、遺棄罪ではあるが、殺人にはならない。
P25:「間引き」されるのは男−1970年代から90年代にかけては、常に男の子の被害者が女の子お被害者をはっきりと上回る。ー跡継ぎなら婿養子という手段がある。−女の子は、育てやすく、将来、婚姻により「片付く」。
P29:1位「不倫」、2位「不義」、3位「未亡人の不義」がえい児殺しの理由、「不義の子は、幸福になれない」は都合のいい言い訳で、自分が非難されないためという身勝手な犯人像のほうが正しい。
P30:兄弟が多くいるから「間引き」といった事例は無い。
P35:『犯罪白書2004年』によると児童虐待による殺人件数は30件で、加害者33人中、実母21人、実父7人、養父・継父2人、養母・継母1人、その他祖父母等二人、内縁の夫は0(ただし、殺人に至らない虐待は父親のほうが多い)
P42:年老いた母親が障害児を殺害するケースで母親が危惧したのは、物理的・経済的なものよりも(社会保障の制度論の枠を超えた)心開ける人が誰も居ないから「一人ぼっちにさせない」という意識と想像する。
P44:1995年に尊属殺が刑法典から削除されたのは、1973年の加害者の娘を何度も妊娠させた被害者の父親の事件。
P56:「心中」−死んでいるのは全て女性で男性は生き残っている。女性とその親との関係が本当の問題で、強く自殺を願う女に男が巻き込まれている。
P58:別れたい側が、邪魔になった相手を「消す」という話は、一つも無い。別れたくない側が、常に殺人者である。・・・未練が無ければ、殺意もわかない。・・・社会的地位が高い人物が、邪魔になった愛人を消すというのは、まさに「架空」の話で、社会的に地位の高い人は殺人事件の加害者にはならない。・・・記録に「未練を捨てきれず」の事例は、今なら「典型的なストーカー」
P61:配偶者殺人:・・・大切なのは、実は別居できる経済的余裕があるかどうかである。別居すれば殺されることも殺すこともない。
P68:素手のケンカは、刑法学的には殺人ではない。・・・犯罪防止に関しては、他人が止めなきゃ無李だということは間違いの無い事実である。
P76:無期刑か長期刑を宣告され仮釈放の後に恩赦を受けた29例は同情の余地の無い凶悪犯ばかりであるが、にもかかわらず、恩赦を受けたのは「見事に更生」しているからである。・・・更生に成功した共通点は出所後に支援する他者がいたこと。・・・更生を揺るぎ無いものにするには「家庭」を持たせること、成功のモデル失われると更生する側・助ける側も共に途方にくれる。・・・本人に任せることは通用しない世界である。
P79:ピアノの音がうるさいと「隣人」に殺害された事件は、近隣関係というより、精神異常者の犯行で、近くの者が被害者になっただけ。
P80:ヤクザは脅すのが職業である。彼等は殺し屋ではない。
P83:飲酒と殺人の結びつきが最も緊密なのは東欧諸国。・・・殺人事件を酒のせいにするのは無理で、もともと凶暴な人間が犯人。
P85:空手の有段者が拳を使った殺人は無い。
P89:ケンカの被害者側には、同一職業が多い。・・・外で飲んで喧嘩は、同職業や同階層が喧嘩の相手になる。
P91:殺人者の職業(平成16年、加害者総数1391人を数十の職業分類に分けた)は「その他の無職者」601人、「主婦」86、「年金・雇用保険等生活者」79、「失業」59、「浮浪者」24人、「その他の無職者」にはヤクザ、内縁の妻が含まれる。社会内で役割を与えられれば、殺人は防げるかも?
P100:ヤクザが一般市民を殺す事件は稀で、・・・ヤクザと、その周辺人物の間のケンカ殺人が一番多い。・・・ヤクザは人殺しではないと、彼等自身が自己認識している。
P111:強姦と強姦未遂でないものが強制わいせつ
P113:『犯罪統計書』には例年、強姦致死は1,2例、
P139:「バラバラ殺人事件」の犯人は、殺害時に死体処理を考えていなかった間抜け。
P145:1948年「寿産院事件」の首謀者は懲役4年
P146:「相次いでいる」
P147:他人の子を襲う犯人は時代と無関係に極少数存在し続けている。社会的背景との関連が薄い。個人の資質に起因する。
P151:殺しが出来る人は、死者が怖くないと言う訳ではない。
P153:地下鉄サリン事件は迅速に結果を出すために、被害者の大半(数千人)は無かったことにされている。なかったことにされた被害者には検事総長名で説明文書が発送された。・・・死刑とするに十分な事実が証明できれば、それを超えての酷い犯罪も、裁判上は、それを証明する必要はない。・・・1902年「野口男三郎」事件、人肉食もそれ自体を罪とせず。
P162:・・・少し酔ってまだ身体能力が残っている者が暴れると危険なのである。精神病も、「軽い状態」のときに大きな事件を起こすのが通常である。・・・大きな事件を起こした精神病者を調べると、同じ人物が繰り返している。
P163:殺人以外の不慮の死や自殺は、年間7万を超えている。・・・殺人事件の全体像をまとめれば、殺人は、1)戦後減少し続けている。2)家族がらみが過半数を軽く超える。3)底辺社会で、失敗人生の末に起きてしまっていることが多い。
P164:重大な要因が2重、3重に絡まっている。身体障害、精神障害、知的障害、社会的差別、貧困、問題家庭、薬物等が、加害者、被害者双方に絡み合っている。
P165:・・・犯罪者の検挙後の世話に関しては、文句なしに大成功を収めているが、それを喧伝できないのは、隠すこと自体が、成功パターンのメカニズムに組み込まれているからである。
P166:『犯罪白書』によれば、殺人事件の検挙率はかつて97%、最近少し落ちても95%、アメリカ6割台、欧州8割、日本の殺人事件の大半は家族が犯人。年内解決とは発覚した年に解決、つまり平均半年で8割解決。
P180:・・・原則には例外があり、例外のほうがほとんどなだけの話である。・・・何が原則で、何が例外かは、「理念」にもとづいて決められており、現実に多いほうが原則で、少数のほうが例外ということではない。
P184:死刑囚は死刑だけが罰である。従って、死刑囚は、原則、刑務所に送られない。・・・取調べは、検事がする「筈」であるが、実は、刑事さんが取り調べをする。
P189:冤罪事件が認められ、弁護側が勝利したのは1963年の松川事件が日本史上初。・・・私の見るところ、殺人事件で起訴された被告は、現在では、実際99%は真犯人である。
P194:刑務所に通う教誨師には歴史的に刑務所と関係の深い浄土真宗西本願寺派が一番多い。
P196:未成年者を死刑にできないは、死刑執行時の年齢が未成年ではいけない規定で、事件当時少年であっても、死刑になるのが正しい。19歳のときの殺人で、1990年に死刑確定された永山則夫は48歳で処刑された。
P199:殺人犯は地元の住居地に帰れない。家族ごと、地域から追放されている(北澤信次)。・・・和歌山の林眞須美の家は放火され、神戸の酒鬼薔薇聖斗宅は荒れ放題、秋田の畠山鈴香の家は取り壊される。
P201:・・・指定された保護司以外、全く相手にしてくれない、強烈に冷たい「世間」がある。・・・仮釈放は、凶悪犯がついに檻から放たれるというイメージではなく、年老いて人の助けなしでは生きていけない者が、保護司を頼っていくというのが現実。
P203:殺人者は・・・その特定の相手を出所後また殺すことが不可能である限り、再犯の恐れは無い。・・・殺してしまえる人間は、更生する力もまたある。
P228:立法段階で、いかなる犯人でも死刑にしないと決めてしまうということは、司法判断をしないということである。これは司法の自殺行為のように思う。
P232:「本当に悪い奴は捕まらない」
P241:一番危険なところは「自宅」である。
P248:中世以前の死刑は、偶然性に任せる、死ぬかもしれない刑罰しか存在しなかった。そして生きながらえれば赦されたと解釈されていた。殺してしまうかどうかは、あくまで神の判断に任されていた。
P258:・・・多くの命は事故や戦争によって奪われ、故意の犯罪による命の喪失は、平時においても全体の「1%」に過ぎない。
『中世の罪と罰網野善彦