戦争に勝ってはいけない本当の理由-白旗原理主義あるいは「負けるが勝ち」の構造-

戦争に勝ってはいけない本当の理由-白旗原理主義あるいは「負けるが勝ち」の構造-

戦争に勝ってはいけない本当の理由 白旗原理主義あるいは「負けるが勝ち」の構造 シモン・ツァバル
P16:悪辣な主戦論者でさえ、戦争に負ければ同情を集める。戦っている間は、正義は立派な主張であり、一種の武器になる。だがひとたび戦争が終わると、正義は勝者から遠ざかる。勝利で勝ち取った権力に正義や道徳を持ち込んでも、笑い者になるだけだ。イスラエルは六日戦争で圧倒的な勝利を収めたことで、国際世論の支持を一気に失った。
P23:WW1の戦死者総数は戦勝国で4,799,900人、敗戦国は2,650,000人
P24:敗北を多く経験した司令官の昇進は珍しくない。1757年フリードリッヒ2世に敗れたスービーズ公は軍最高司令官になる。国防相時代アリエル・シャロンヒズボラに敗北したが、その後首相になる。一方で勝っても解任・降格されたのは多く、ビザンティン帝国のベリサリオス。ブリテン空戦で勝利したダウディング英国空軍大将。朝鮮戦争のマッカサーがいる。
P29:戦争の真の目的が公になることはない。果たせなかったときに、面目が立たないからだ。・・・的をはずさない方法は先に矢を放っておいて、当ったところに標的を描くのである。
P36:M・ウェーバー「敗戦は勝利に負けず劣らず、銀行や産業を活気づける」、・・・戦争に負けた国で、貧者がますます貧しくなるのは事実だが、たとえ勝ってもどうせ彼等は貧しくなる。・・・中産階級は、敗戦直後こそ痛手を被るかもしれないが、立ち直りも早く、すぐに裕福な生活を送れるようになる。・・・1815年第二次パリ条約でナポレオン帝国が終焉を迎え、フランスが負った賠償金は利子を含め10億5000万フランを超えた。・・・その後、フランス経済はかつてない好景気を迎えた。・・・ところがアメリカは、2002年タリバンに勝利したあと株価が暴落している。
P39:1)失業者が増加、2)国及び民間レベルの債務超過が深刻、3)旧態依然とした産業が時代から取り残されている、4)社会が深刻な問題を抱えている。これらは全て”敗戦”で解決できる。
P48:感情的手段:六日戦争でイスラエルが旧市街を手に入れた以後、「嘆きの壁」は巡礼地となり、聖職者、一般市民が目に涙をたたえて嘆きの壁を見上げた。以前は、嘆きの壁に行けないからと、大袈裟に哀しむ者などいなかった。
P49:偶発的要求:教科書や切手に自国の地図を印刷する。このとき「不可解な」印刷ミスが起こり、隣国の領土が一部含まれた地図が出来上がる。
P53:近隣諸国を全て敵に出来れば言うことは無い。その点で今日のイスラエルは理想的である。
P56:アメリカはマーシャルプラン等の政治的、経済的救援を行い、欧州やアジアでの支持を失う。
P64:ルイス・コーザー『社会闘争の機能』−「対立は、それまで無関係だった者を結び付ける要素となりえる」
P65:ラルフ・ダーレンドルフ「一つの国には、主に三種類の対立関係が存在すると思われる。それは階級間の、都市と地方の、プロテスタントカトリックの対立である。・・・支配階級の中にはプロテスタンもいればカトリックもいるし、宗派には、都市生活者や地方在住者もいる。」
P67:ルイス・コーザー「対立の参加者が、自分は集団や共同体の代表にすぎないと考え、いま戦っているのは自分のためではなく集団の理想のためだと信じている場合、その対立は個人的な理由で戦うものより、さらに過激で残酷になりやすい。個人的な要素を排除すると対立がいっそう激しくなるのは、個人的な闘争によく見られる緩和の要素がなくなるからである。」
P66:エドワード・ロス「あらゆる方向性が存在し、そのどれもがさまざまな抵抗を受けるような社会は、きっぱり二つに分かれる社会よりも、暴力に支配されたり、崩壊したりする危険は少ない」・・・社会がまとまっているのは、「基質型」の対立が存在しているからだ。だから、社会を分断するには、基質型の対立を「亀裂型」の対立に変換しなければならない。
P69:移民を入れさえすれば、社会を分裂させる困難は一気に解消される。・・・人種対立にしたければ違う人種、宗教的対立にしようと思うなら異教徒を移民に選ぶ。
P70:社会が爆発する方が、ただの分裂より良い。
P92:勲章が贈られるのは、軍が苦境に立たされたときだけ。ヴィクトリア十字勲章は軍隊を破滅から救おうとした努力した(そして失敗した)兵士に与えられる。この勲章はバラクラヴァで惨敗した軽騎兵旅団がきっかけで制定された。:ズールー戦争イサンドルワナの敗北でマルヴィル中尉に、セポイの反乱では、デリーでの敗北に貢献した3名(バックリー、フォレスト、レイノル)に、ベトナムで大失態を演じたオーストラリア軍訓練チームのキース・ペイン准将に贈られている。・・・派手にしくじると勲章が貰える。逆に言えば勇敢さを称えるメダルが授与された背景には、必ず大失態がある。
P94:富永恭次中将
P101:毒ガスによる戦死傷者はロシア27万5千人、フランス19万人、イギリス18万1千人、ドイツ7万8763人、アメリカ7万552人、・・・犠牲者のほとんどが、「攻撃をしかけた側」に出た。
P104:核兵器は自国に死者をもたらす最高の兵器
P130:カンネーの敗北があればこそ、ローマはその後何世紀も世界に君臨することができた。
P150:サダム・フセインが1990年に湾岸戦争を始めたのは、「負けることが目的」だった。・・・戦争に負けてアメリカの占領を受け、崩壊寸前だった経済、社会を立て直す腹だった。・・・だから、サダムが降伏して多国籍軍の要求を呑むと、不安になったアメリカは「戦場から逃走」した。・・・イラク国民に向けたサダムの大勝利宣言は嘘ではなかった。・・・しかし勝利がもたらした惨状にサダムが気づくのには数年掛かった。(だからこそ、真の敗北を願う彼は再び戦争を計画したのだ)
P153:敵が逃げたら−白旗を掲げる。敵が白旗を揚げたら−即座に逃げる。
アーサー・ポンソンビー『戦時の嘘』、エメリッヒ・ド・ヴァッテル『国際法』、H・C・W・ビショップ『クトの捕虜』、ロナルド・ミラー『クト ある軍隊の滅亡』、ダニエル・J・マッカーシー『ドイツの捕虜』、C・H・バーバー『クトの包囲とその後』、アンソニー・ディーン=ドラモント『帰りの切符』、
P164:P・R・リード『コルディッツの物語とその後』
P165:ユージーン・キンクヘッド『なぜ彼らは協力したのか』、A・L・フィッシャー『有刺鉄線病』
P166:有刺鉄線病の原因は、虐待ではなく、刺激不足で、その治療法が”脱走”だった。
P167:朝鮮戦争は、脱走兵が出なかったアメリカ史上初の戦争だった。
P171:優れた戦犯は、あまり多くの証人を残さない。