社会闘争の機能 (1978年)

社会闘争の機能 (1978年)

社会闘争の機能 コーザー
P27:「闘争は社会化の一形態である」:・・・いかなる集団も完全に調和的でありえない。・・・集団は、調和のみならず不調和を、結合のみならず分離を必要とする。・・・「肯定的」な要因と「否定的」な要因の両方が集団的諸関係を構成するのである闘争もまた協同と同様に社会的機能をもっている。・・・ある程度の闘争は、集団形成と集団生活の存続にとって必須の要因である。
<命題1>闘争が集団を結束させる機能
P35:敵対的態度は闘争行動に結びつく傾向がある。これに対して、闘争は常に相互の取引である。
P37:すなわち社会構造がもはや正当と見なされないとき、同様の客観的な立場から、諸個人は闘争を通じて、共通の利害関心をもった自覚的集団を自ら構成するようになるであろう。
・・・闘争は、社会や集団の一体性と境界線を設立し維持するのに役立つ。他の集団との闘争は、集団の一体性の確立と再認識に寄与するし、また周囲の社会に対してその境界を維持する。
P38:流動性を提供する社会構造においては、より低い階層の敵対感情は、しばしば、敵意と憧れとが入り混じったルサンチマンの形をとる。
<命題2>闘争が集団を維持させる機能と安全弁制度の重要性
P44:ウィッチクラフト
P45:ウィット
P46:・・・ナチ体制が、政治的風刺は敵意の無害なはけ口を与えるとしてそれを歓迎したという・・・
P48:H・ヘルツォーク「昼間のラジオ聴取における心理学的充足」ー「聴取者のなかには、ただ情緒的解放の手段としてのみ続き物の番組を楽しんでいると思われるものがいる。彼らは、その続き物が提供してくれる『泣けるチャンス』を喜ぶ。攻撃性の表出の機会もまた満足の理由となる」
<命題3>現実的闘争と非現実的闘争
P56:J・デューイ「人間は標的があるから射るのではなくて、彼らは投げたり射たりすることが、より効果的で、重要になりうるように標的を設定するのである」・・・反ユダヤ主義というのは、・・・攻撃者にとって対象(ユダヤ人であるか黒人であるかその他の集団であろうと)は第二次的な意味しかもたない。
P59:A・ジョンソン「人々の間の反感は、・・・戦争原因というより結果であると思われる」
P62:「内集団の成員に向かって表立った敵意を自由に表出することが危険であり、よくないことであるとされるが故に、敵意を抱くことについての何らか根拠が”既に存在している”ような関係にある外集団に向けて感情を置き換えることの方がしばしば心理学的に容易である。従ってスコープゴーティングは、理想や利害に関する現実の闘争が存在しているといった敵意を抱くための何らかの<正当な>根拠なしにはめったに現れてこない」。ことばを変えれば、現実的闘争のなかに非現実的な闘争が含めれて混合されていりことの原因の一つは、表面だった敵意の自由な表出を「危険なものとかよくないもの」であると規定する制度ののうちにある。
P64:非現実的な闘争は、社会化の過程や、その後の成人の役割義務から生じる価値剥奪や欲求阻止から生じてくる。あるいはそれらは、・・・もともとは現実的な敵意であったのだが表出することが許されていないような敵意のすり替えから結果する。闘争の第一の類型が特定の成果を達成することを目指して、不足を抱いている参加者自身によって引き起こされるのに対して、第二の類型は、すり替えられた対象に向けられた攻撃的行為から成る。第一のタイプは、その参加者にとっては、現実的な目的を達成するための一つの手段であって、その手段は、・・・別の手段が現れたときには放棄され得るが、第二の類型は、そのような選択の余地はもたない。というのは、満足が攻撃的な行為それ自体から引き出されるからである。
P66:一般に、社会的なデータを扱う場合、「衝動」とか「刺激」とか、そのほか単なる個人に帰属させられるような属性よりも、むしろ諸個人の間の”相互”行為に関心が向けられるべきであるという点で、社会学者は一致している。
「文化による攻撃の装置」
P68:・・・「無組織集団では直接的な攻撃はみられなかった(ここで<直接的な攻撃>といっているのは集団のメンバーに対して表出される攻撃のことである)。しかし、組織集団においては直接的な攻撃が61ケースもみられたのである」
P70:第二次大戦中・・・「同胞」集団への第一次的な忠誠が明らかに最も重要なものであった。・・・敵への憎しみはそれほど重視されなかった。
「対立者を憎むということは有効である」・・・民兵の軍隊が傭兵の軍隊よりも強いということの一つの理由なのである。
P72:・・・逆に調停者の主要な機能は、攻撃性の非現実的な要素を闘争状況から排除して、対立する当事者双方が、問題になっている対立要求を現実的に処理しうるようにすることである。
<命題5>密接な社会関係における憎愛
P76:・・・このことは、第二次集団のなかでよりも第一次集団のなかでの方が、敵対感情の発生機会が多いということを意味する。
P77:B・マリノウスキー「思いやりと同様に、攻撃も姿を現し始める。・・・これらの全てが示しているのは、利害の相違が生じる場合においては、当該の問題をめぐって、率直な交流が行われるが、さらに、怒りが燃え上がることもある。・・・」。「攻撃とは協同の副産物である。・・・」
P78:氏族間および姻戚間にみられる、いわゆる「冗談をいいあえる間柄」というものは、親睦と相互扶助の要素と憎しみの要素との混在を具現している。
<命題6>社会関係が密接になるほど葛藤の強度が高まる
P84:緊密な集団にとって、裏切りは集団の統一に対する脅威として知覚される。
P87:R・ミヘルス「党派集団の憎しみは、まず第一には、社会秩序について自らの見解に対抗する論敵に対して向けられるのではなくて、政治的な分野において懸念されていたライバルに対して、つまり”同一の目的を目指して競争している”人々に対して、注がれるのである」
<命題7>集団構造の内部に対して闘争が持つ影響と機能
P95:E・T・ヒラー「協同は依存を生み、協同の制止は、対立するそれぞれの側に、敵側への強制と反抗の手段を提供する」
P96:エドワード・E・ロス「各種の社会闘争は、他のあらゆる社会闘争を妨げる。・・・数多くの対立によって支えられている社会は、実際のところ、唯一つの軌道に沿って分裂した社会よりも、徹底的に引き裂かれたり解体したりする危険は少ないだろう。・・・社会のの内部闘争によって、”社会が縫合される”といってもよいだろう。」
P97:・・・緩やかに組織された社会における安定は、しばしば誤って闘争のない状態と同一視されるけれども、・・・例えば、官僚制的構造は、多様な闘争(・・・職員間の、および事務所や役所間の闘争)が統一戦線(高い地位に対する地位の低いメンバーたちの結束)の形成を妨げている・・・
P101:・・・柔軟なシステムは、闘争の発生を許容することによって、合意の崩壊への危険性を少なくする。このような場合、闘争による敵対感情の表出と実行は、システムの構成要素間における、相互の、ないし一方の調整および適応につながる。
P102:・・・憎しみの感情を率直に表現することは、基本的な関係をだいなしにするどころか、その関係への参与が全面的なものでなくて部分的なものであるなら、憎しみの感情表現は統合の源泉になりうるのである。・・・不満というものは、それが生じた情況で、すぐに表出されれば、・・・社会ないし集団の維持を促進する。
P103:闘争は、一つの関係における破壊的要素を除去し、統一を回復するのに役立つ。闘争が、敵対し合う当事者間の緊張を解消するものである限り、その闘争は安定化への機能をもち、その関係の統合的要素の一つとなる。
<命題8>関係の安定性を示す指標としての闘争
<命題9>外集団との闘争は集団内凝集性を強める
P120:・・・独裁制の発生は、内部の凝集性の強さに反比例している。・・・
P121:・・・不況以前に家族内部の連帯を失っている家庭は無感動に反応し崩壊してしまうのに対して、連帯している家族は実質的に強化される。
<命題10>他集団との闘争は集団構造を明確なものにし、それゆえ内部闘争への反応を規定する
P138:外部との持続的な闘争を行っている集団は、集団内に対しては寛容ではないという傾向を持つ。それらの集団は、その集団の統一性の一定限度を超えた離反を寛容に取り扱うことはない。そのような集団は、教派型の特徴を示すことが多い。・・・また、それらの集団はその成員たちの全パーソナリティの包絡を要求する。・・・教会型の集団は、外部と絶えず闘争しているわけではないので、・・・成員たる者に対して厳格な基準を設定しないために、その規模の大きなものであることが多い。そのような集団は、外部からの圧力に対して、構造の弾力性を示すこと、および集団内の「容認された闘争」の領域を認めることによって、巧く対抗することができる。
<命題11>敵の探索
P140:敵を「誘発する」
P142:チェスター・バーナード「組織というものは、それが自らを達成できない場合には崩壊せざるを得ない。それはまた、自らの目的を達成することで自らを破壊する」
P144:・・・敗北が外部の人々の力によるものであるにも拘らず、(その敗北によって)喚起された反作用の激しさは、内部の人々の内に憎しみの対象を見出すというものである。・・・彼らが犠牲となることによって、その集団の敗北感を癒し、・・・全体としてのその集団が失敗したのではなくて、何人かの「裏切者」がしくじっただけだということで安心させられる。
<命題12>イデオロギーと闘争
P155:超個人的行為を優れて高潔な行為と看做したのは、二十世紀への転換期のドイツにおいてであったといえる。
P161:J・シュンペーター「知識人は、運動を言語化し、運動に対して理論とスローガンを与え、・・・運動を自覚的にし、そすることで運動の意味を変化させた。」
<命題13>闘争は敵対者を結束させる
P166:人は闘うために統一する。そして、人はお互いに認められた規範と規則の管理の下で闘う。
P176:犯罪は、「公共の健康にとって一つの要素であり、且つ又全ての健全な社会にとって欠くことのできない要素でもある」
P177:柔軟性に富んだ社会は闘争行動から利益を得る。規律の修正および創造を通して、この行動は、変化した条件の下でそのような社会の存続を保証するからである。他方、堅い社会は、闘争を許さないから、必要とされている調整を妨げ、それゆえ、究極的な崩壊への危険性を極大化するのである。
<命題14>敵を統合することによる利害関係
P179:統一された労働組合連合が散在している零細企業と闘争するのは困難である。それにまた、一方の敵対者は闘争の解決を促進するために相手の敵も、自分自身と同じほどに結束していると考えたがる。
P180:命題14は敵対する両集団がほぼ対等の戦力をもつにいたっているといった闘争の水準が既に存在している場合に限って採用されうるのである。
P184:もし両者の間に相対的な力のバランスがあるならば、統一された団体は統一された敵集団を好む。労働組合はしばしば個々の雇主よりもむしろ雇用主の協会と交渉することを選んだ。・・・代表者組織と交渉することによってのみ、労働者は、交渉結果が個々の雇主によって危険にさらされることはないだりうということを確信する。・・・このことは、敵対する双方が、敵の利益を自分自身の利益としても認めるという明白な逆説を説明するものである。
<命題15>闘争は力の均衡を樹立し維持する
<命題16>闘争は結社や連盟を生み出す
P194:「敵対的協同」
P203:ファシズムの台頭は、左翼団体間の防衛的連盟である、人民戦線を成立させた。・・・
P205:アメリカ農民同盟の歴史
P206:非闘争目的で設立された結社や連盟でさえも、部外者にとっては威嚇的で敵意に充ちたものとして受けとめられることがある。−創設当初の労働組合はもっぱら共済組合であったが、労働者の団結が、攻撃的な行為と考えられたので「世界労働組合同盟」創設の試みは欧州諸国全般で激しい反対に出会う。
P219:現実的闘争においては、闘争以外に望ましい結果を得るという点で機能的択一項目があるだけでなく、闘争遂行の手段に関しても機能的択一項目がある。他方、非現実的闘争においては、敵対者の選択に関して機能的択一項目が存在するだけである。・・・安全弁制度の必要性が社会制度の剛さの増大とともに増すという我々の仮説は、非現実的闘争が社会構造に内包する剛さの結果として生じうるということを示唆するところまでに拡大されてもよいだろう。
 闘争のタイプや社会構造のタイプを区別することについての我々の論議は、闘争は、闘争の許容や制度化が全然ないかまたは不十分であるような社会構造においては、その構造にとって逆機能的なものになりがちであるという結論に我々を導く。「分裂」への危険性にともない、社会システムの合意上の基礎を攻撃する闘争の激しさというものは、構造の剛さに関係がある。そのような社会構造の均衡を脅かすものは闘争ではなくて、敵意の蓄積を黙認し、いったんそれらの敵意が闘争の形をとって爆発すれば分裂の一本の大きな線に沿って敵意が通路づけられるのを可能にする社会構造の剛さそのものである。