IQってホントは何なんだ?

IQってホントは何なんだ?

IQってホントは何なんだ? 村上宣寛
P16:ターマンはIQが135を超えた児童を天才児として、1500名以上を35年も追跡研究し、普通児よりも健康的情緒が安定していることを示した。当時、天才は狂気と紙一重で、不健康な精神異常者と考えられていた。・・・偏見を正す良い研究だった。
P18:ボーリングの”知能とは知能テストが測ったものである”とは、人を馬鹿にした訳ではなく、当時の物理学の最新思想を心理学に持ち込んだだけである。
P26:「群盲、象を評す」
P31:現行の知能指数は全て標準得点である。
(1795年、グリニッジ天文台の解雇事件)
ゴールトン、キャテルの「精神テスト」
P68:教科書には大して競争原理が働かない。良い教科書が生き残り、悪い教科書が淘汰される訳ではない。執筆者が一流の研究者であるということもない。
P72:「CHC理論」「一般知能g」
P82:ガードナーは一般知能gの存在を認めようとしない。
P87:キャテル−ホーン−キャロルのCHC理論は、最も実証性が高いが、日本では殆ど知られていない。・・・キャロルが知能研究者であることすら知られていない。日本語で読める情報は、ディアリの『知能』に、キャロルの1993年の研究の簡単な紹介があるだけである。・・・
 ガードナーの多重知能理論は、単純で判り易い。マスコミ的にも受けが良い。書籍も翻訳されているので、最近の知能理論では一番知られているだろう。しかし、残念なことに、実証性が一番乏しい。つまり、一般受けはしているが、将来性は無いだろう。教育効果も確認されていない。
 スタインバーグの三頭理論は、日本語では不十分な内容の紹介しかなく、読んでも意味不明である。不思議に思って調べると、それらの紹介文は、『ヒルガードの心理学』の1988年のスタインバーグ理論の概説に遡る。そこでは、分析的知能の三成分(メタ成分、実行成分、知識獲得成分)を説明しているだけで、創造的知能や実際的知能を説明していない。
・・・心理学には国境がある。
・・・知能指数(一般知能g)は差別であると発言しておけば、日本では居心地が良い。
P94:・・・知識問題と一般知能gとの相関は0.8程度ある。だからIQの推定は可能である。
P97:30年ほど前、(京大NXの)上限値145を記録した同級生は大学教授になったが、常々、タクシー運転手になりたいと言っていた。滑らかで流れるように車が動く。動作性知能が満点の人は違うのである。知能テストの予測力は大きくないが、全く予測できないほど小さくもない。
ヤーキス、オーティス、ウェクスラ
P108:CHC理論では知能に16の一般的な因子があるので、そのうち5つはWAIS-?によって推定可能である。逆に残りの11の知能因子は測定できない。
『臨床心理アセスメントハンドブック』
P111:(上野一彦の私信によると)WISC-Rは特別児童扶養手当の申請に使われる。・・・WISC-RはWISCや田中ビネーと比較すると知能が20点近く低く算定されるので、知的障害の判定に問題があった。彼は標準化サンプルに問題があり、分散が実際より小さいと考えて、これを確認した。ところが、出版社や製作者はこれを認めなかった。・・・標本数の適量は分析法に依存する。母集団の大きさとは何の関係もない。(日本版WISC-Rの解説書の日本語版標準化の章の)著者たちはサンプリング法について、何一つ知らなかったのではないか?
 結局、年齢と年齢別以外に、標準化集団で考慮したのは、地域だけである。それも日本を三つに地域に分割しただけであった。母集団をよく代表するように、バリエーション豊かなサンプルを収集すると言う配慮が何処にもない。・・・
 WAISと同様にWISC、WISC-R、WISC-?も各検査問題の年齢別の平均点や標準偏差は公表されていない。もし、公表されていれば、標準化データがおかしいと第三者にも理解されたし、改訂も早くに行われたろう。不幸にしてこの日本語版WISC-Rは1978年から1998年まで、利用された。この間、多めに精神遅滞児が認定されたことだろう。
(頭の大きさと回転の速さ)
頭蓋測定学:2005年、マクダニエルによると−37サンプル、延べ1530名による推定では、脳容量とIQの相関は0.33−結論として、その影響力は10%程度。既存の知能テストは一部の知能しか測っていないので、脳容量と社会的成功等との相関は、誤差の範囲になってしまうだろう。
ERP(事象関連電位)、アルファ波の最大周波数
「反応時間」、「点検時間」
(年をとると知能は衰えるか)
コーホート古代ローマの歩兵300〜600名の一隊を指し、軍隊とか仲間の意味になった。
「横断的方法」:年齢効果の要因が分離できない。
「縦断的方法」:時間がかかる。追試研究も簡単には実行できない。
コーホート研究」:年齢効果と時代効果はある程度分離できる。比較的広い年齢範囲を比較的短期間で研究できる。・・・集団特有の要因は排除できない。
「シアトル縦断研究」
スコットランド知能調査」
・IQは生涯に渡って比較的安定していた。1932年と1998年の相関は0.63であった。
・IQの高かった人は長生きし、低かった人は早く死ぬ。この傾向は女性で目立っている。
・IQの高い人は、精神障害にもかかり難い。IQが16点低下する毎に精神科を訪れるリスクが12%ずつ増加する。性別や居住地とは関係ない。ただし、人数が少ないので、はっきりとは結論できないが。
・・・胃ガンや肺ガンで死亡した人の平均IQは95と低い。
・・・脳というハードウェアは高齢になると確実に劣化する。しかし、言語には、脳の劣化を補うような仕組みがあるようだ。複雑な言語課題や現実的な能力は、年齢と共に上昇するのである。
(遺伝で知能が決まるか)
P156:ゴダードアメリカ版の知能テストを作成していない。フランス語を英語に翻訳しただけ。・・・ゴダードの思想は当時の時代思想を反映していただけ。・・・彼の主張で移民は制限された。
カリカック家」
P164:家族研究には大きな制約がある。養子を迎える家族は裕福であり、サンプルが偏るので、分散が小さい。相関関数などが小さな値になるので、家族研究では遺伝の影響力を過小評価してしまう。
P173:「遺伝率の誤解=特定個人のIQを決定する比率ではない」を利用して、アメリカでベストセラーになったのが1994年の『ベル・カーブ』
P179:『ベル・カーブ』のデータを見て、要点を批判してみる:
・IQと教育年数の回帰分析の結果では、影響力は66〜68%もある。知能テストが学校教育と関係するのは当然である。
・IQと貧困関係の様々な指標では、回帰分析の影響力は3〜6%と非常に小さい。IQと犯罪では1.5%で、誤差の範囲で切り捨てるべき数値である。
・IQが文化的バイアスを受ける可能性を考慮していない。
・人種は文化的概念で、遺伝子によって区別されるものではない。ホモ・サピエンス種の遺伝的変異は小さい。
『ベル・カーブ』の著者は遺伝率からIQは遺伝的に決定されると考え、そのIQが社会的地位、貧困の原因であり、人種間のIQの差も遺伝による考えた。・・・どれが原因で、どれが結果であるかは、回帰分析では判らない。・・・回帰分析ではなく共分散構造分析を使えば、モデルが成立しない場合も明らかになっただろう。
「フリン効果」
P186:2006年、テンプラー&アリカワの論文←粗雑な分析と偏見の歴史は、抹殺することなく、記録に残した方がよいだろう。
P191:ピーズ夫妻の『話を聞かない男、地図が読めない女』は男女差研究を取り上げて、誇張して、我々のステレオタイプに合わせて、提供したからベストセラーになった。現実には『話を聞かない女、地図が読めない男』が山の様に存在する。個人差は男女差よりも大きいのである。
「効果量」
P194:99.9%以上の人にとっては、男女差よりも個人差の方が大きいのである。
(知能テストと勤務成績)
『心理尺度のつくり方』2006
P198:(図10−1)勤務成績についての予測妥当性(シュミット&ハンター)
・・・過去に受けた訓練や経験を得点化する評価法、教育年数、興味は、勤務成績と殆ど関係がないし、筆跡と年齢は、全く妥当性が無いという結果である。日本では筆跡を見れば性格が判るという人がいるかもしれないが、完全な勘違いである。履歴書を自筆で書かせるのはこの名残りである。
P206:リクルートグループのNMATやGATの予測力が小さいのは、一般知能gを十分に測定していない。つまり、頭の良し悪しを十分に弁別していない可能性がある。
付録A(統計知識の補足)
相関係数」の意味
・逆相関は右下がりの散布図になる。
・相関は係数はある集団で計算される。個人では計算できない。だから、相関係数からの議論は全てある特定の集団に当てはまる話であり、特定個人に当てはめるものではない。
・選抜者集団では常に相関係数が低くなる。「天井効果、床効果」
相関係数の二乗を決定係数と言い、分散や影響力の指標である。相関係数が0.8で影響力は64%、誤差(残りの影響力)は36%もある。
・相関関係は因果関係を意味しない。これはとても重要な点である。
「回帰分析」の意味
・回帰分析は相関係数の応用とも看做せる。つまり、相関係数についての注意点は、殆ど回帰分析にも当てはまる。
・回帰分析では因果関係は判らない。・・・逆向きの回帰分析も可能である。説明の方向はどちらでも可能だし、どちらも間違っていることもある。
・回帰分析は線形モデルである。相関係数の場合と同様、曲線的な関係があると当てはまりが悪くなる。この場合はデータを対数変換して線形モデルに当てはめたり、非線形の回帰分析を利用する。
・多くの変量に拡張したのが重回帰分析である。ただし、回帰モデルは、変量間の相関がないと仮定しているので、何でも追加してはいけない。相関のある多くの変量を投入すると、見かけ上、説明率が上昇するが、モデルの前提を逸脱してしまう。この点でも『ベル・カーブ』の分析は問題があり、本当の説明率はもっと小さいだろう。
「共分散構造分析」LISREL,EQS,AMOS
豊田秀樹『共分散構造分析[入門編]』(1998年)