だまされないための年金・医療・介護入門 鈴木亘
P13:国立社会保障・人口問題研究所は、過去5年毎回、出生率がすぐに反転回復するというシナリオを描き続け、少子高齢化の進行を常に甘く見積もる。
P75:自賠責保険は強制加入で逆選択を防いでいるが、政府は運営していない。
P34:現在の世代間不公平には、創設当初の高齢者支払いに伴うものと言うよりも、特に1970年代初めから無計画に始まった年金給付の大盤振る舞いのツケが大きく影響している。
P37:経済学者は、事業主は労働者に支払う賃金を減額して、(保険料の)事業主負担分を捻出していると考える。つまり、事業主は自分の負担を労働者に「転嫁」していると考えている。
P39:「税の帰着問題」
P68:高齢者になって医療費が増えることは「平均的に見て」予期できる。予期できることには「保険」は成立しない。
P70:「逆選択
P72:年齢について保険会社と個人の間に情報の非対称性は全くないので、高齢者の保険料を高く設定すれば、保険料に不公平は生じない。
P88:そもそも戦時公債を積立金によって吸収させることが、年金設立の目的だったと言われている。戦費調達の国債まで背負うことができるのだから、創設時の高齢者年金給付分などで、国がわざわざ国債を発行する必要はない。歴史的負債は、積立金の中から調達できる。
P91:2007年現在で本来あるべき積立金は約670兆円だが、実際に存在する積立金は約130兆円。
P92:年金の創設期のように人口構成が若く、人工成長率の高い時代においては、「賦課方式の収益率は、積立方式を上回る」、その時代に限っては、賦課方式の方が積立方式よりも「全ての人々にとって得」という状況が生まれるので、政府は賦課方式に移行する動機をもってしまう。→「社会保険パラドックス
P93:利子率と人工成長率が等しいとき、積立方式でも賦課方式でも高齢者が受け取る年金額は替わらない。
P100:複雑な制度は、単なる歴史的経緯の遺物と思えば良い−
P112:「長瀬式」
P116:「医師誘発需要」
P152:(廃止された)5年に一度の「財政再計算」と、それに伴う改革こそまさに「自動安定化装置」だった。
P159:厚生年金と共済年金の一元化に伴う(共済年金の積立金比率が厚生年金の積立金比率を上回る部分24兆円を合算前に共済独自に使い切る)措置は、公務員OBや退職が近い公務員に対する「積立金の大盤振る舞い」と言える。共済年金の現役世代および将来世代は、殆ど利益を得ることはない。
P160:共済年金は厚生年金よりも年齢構成が「少子高齢化」が進展しているので、厚生年金よりも積立金の取り崩しが早く始まる。−持参金を全て使い、借金を背負って嫁に来たのが共済年金
P163:国民年金の2007年度未納率は36.1%、これに減免・猶予者を含めると52.7%の国民年金加入対象者(一号被保険対象者)が保険料を支払っていない。
P174:1965年生まれ以降の世代は、平均寿命まで生きたとしても、支払い保険料総額よりも受け取れる年金額が低い「損」な制度に国民年金はなっている。加入期間の制約が緩めば、これらの世代にとっては、保険料を減少させることが損失額を少なくすることになり、合理的な行動の結果として、ますます未納期間が長くなり、未納者が急増する。
P178:パートタイム労働者の厚生年金加入拡大は、初めこそ保険料収入増で年金財政を好転させるものの、最終的にはむしろ財政を悪化させ、積立金をより少なくする。その理由は、現在のパートタイム労働者は子育てを終えた中高年齢層女性が中心であり、支払い保険料額よりも年金受給額の方が多い世代である。特に女性は寿命が長いので、同世代の男性と比較しても、更に得である。
 このことは、年金財政改善のために「外国人労働者」を受け入れるという議論にも当てはまる。問題の先送り、将来へのツケ回しにほかならない。
P187:予防医療は、その実施率が増加するのは医療経済学者の常識。検診がこれまで見逃していた新しい病気を発見する。早期発見が重要とされる「癌」ですら、検診実施率を高めると医療費がむしろ増える。
P190:一般的に、個人に対しては、知識の提供や啓蒙、指導などよりも、税金や保険料引き上げ、補助金供与といった「金銭的インセンティブ」の方が遥かに効果的である。
P193:若者の喫煙の価格弾力性、多くの研究で非常に高い。若者の喫煙率が減少すると、ピア効果の影響から、喫煙開始の選択や喫煙開始年齢も改善する。
P196:「日本医師会」は開業医が中心の団体で、勤務医ではなく、開業医の利害を主に代弁する。
P205:市場経済下では医師不足は存在し得ない。それが顕在化したのは、診療報酬という「価格統制」が行なわれているからにほかならない。この問題への対策は明らかで一義的には「診療報酬単価自由化して、市場経済の下で価格調整できるようにする」←医師と患者間の「情報の非対称性」に注意。
P216:介護労働力不足問題も医師不足問題と同様、介護報酬単価という「価格統制」が災いする。介護サービスの価格は介護報酬単価によって固定されているために、価格による需給調整が働かず、供給量が減少したまま放置され、介護労働力不足となる。価格が引き上げられないから、需要が旺盛のまま減少しない。一方、供給は採算が合わずに増加しませんから、この介護労働力不足はいつまでも解消しない。しかも、2006年には、介護報酬単価を大きく引き下げてしまい、この介護労働力不足をさらに拡大させた。
P217:介護サービス分野は、医療とは異なり、「情報の非対称性」が重要ではない。介護の分野は、それまで家族がしていたぐらいだから。
P222:介護労働力のキャリアアップは人材不足を拡大する。・・・研修費や研修中の逸失所得は全て労働者負担であるので、これは介護賃金を引き下げたことと同じ効果を持ち、その分だけ他産業に介護労働力はシフトする。
P232:本書では積立方式という場合は、「世代勘定の積立方式」という意味で使っている。
P235:「積立方式はインフレに弱い」というのは、金利が自由化した1980年代以降にあっては、馬鹿の戯言である。→「フィッシャー効果」
P257:自己負担増にはMSA(医療貯蓄口座)を導入
P260:厚生年金納付率を下げないための「遡及脱退」の事務処理−遡及脱退したことを企業の従業員にばれないように、各地の社会保険事務所が診療報酬明細書を抜き取るなどの証拠隠滅をした。
P264:保険料納付額・納付状況の「可視化」には預金通帳を発行する。・・・確認を怠りがちな人の為に、通帳確認を行なった中から毎年、宝くじが当るという方法もある。→年金特別便費用380億円。
P266:多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。みながみな口を揃えてだまされていたという。私の知つている範囲ではおれがだましたのだといつた人間はまだ一人もいない。
(中略)
「だまされていた」という一語の持つ便利な効果におぼれて、一切の責任から解放された気でいる多くの人々の安易きわまる態度を見るとき、私は日本国民の将来に対して暗澹たる不安を感ぜざるを得ない。
「だまされていた」といつて平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。いや、現在でもすでに別のうそによつてだまされ始めているにちがいないのである。
伊丹万作『戦争責任者の問題』)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000231/files/43873_23111.html